セブンの女 8 | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1993年から1994年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします


あもんが所属するツーリングチーム“R2”は活発的に活動をしていた


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3年生であったサンさんが新たに仲間になった
サンさんは大型2輪免許を取っておりヤマハのFJというビッグバイクに乗っていた
FJに乗る小さな身体のサンさんはいつもはニコニコ顔であるが
バイクに跨ると“かっ飛び君”になる性格であった
夜中の福山市内をR2で走っていた
あもんが信号待ちで先頭に止まると
車線変更をしてサンさんが並んだ
“フォン、フォン、フォン”低重音のフカシ音が響いた
青信号になった瞬間FJは一気にアクセル全開となった
タイヤをならしサンさんはかっとび君となった
そんな面白い遊びがあることを知ったR2メンバーは次の信号で6台が並ぶ
“フォン、フォン、フォン…キュルルル”
いつも勝つのはサンさんだった
それを悔しがったアンチさんは言った

『大型2輪免許をとってBIG1に乗ってやるぜ!』

大型2輪免許を取るには教習所に通う必要はなかった
大型バイクでいきなり実施試験を行いそれに合格すると大型免許が取得できる
しかし普通のバイク乗りはそれぞれに乗り方に癖があり
基本的技術を基本的に運転するのは難しい事だった
よってこの実施試験では受かるものは少なかったのだ

『よっしゃ!やっと取ったで!』
アンチさんはあもんに報告をした
『おめでとうございます!で、何回目で通りました?』
『27回目じゃ!ワシはまだ優秀なほうで!40回台が普通じゃもんの~』

アンチさんは夢のバイクであるホンダのBIG1を購入した

『うぉぉぉ~ツーリング行こうで!』
ある夜、R2メンバーが全員集まった時にアンチさんは言った
『もう、寒くなりましたからね…』
あもんは言った
『アホぅ!ライダーが寒いとか言ったらアカン!』
『冷たい風にも耐えながら走るのがライダーじゃぁ』
『ほうじゃ!今から行こう!今から!』

アンチさんはBIG1に乗りたくてしようがなかったのだ
アンチさんの強い押しに呑まれみんなは渋々バイクに跨った
月は12月、時間は23時である

『ほいじゃ~鷲羽山でも行くか』
ヒメノさんはみんなに言った
鷲羽山とは岡山県にあるツーリングスポットであり
広島県の端にある福山からでも数時間はかかる距離である
あもん達はR2を東へ向かって走った
深夜のR2は車量が少なく大型トラックがスピードを上げて走っている
あもん達はトラックを追い越し走った
途中でノロノロ走る暴走族と遭遇をした
しかしあもん達はピースサインを送りながら爆音達を追い越して走った



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時は12月の深夜である

瀬戸内が温暖な気候であってもたまらなく寒い
皮のグローブは寒さで堅くなり寒いどころかもはや痛い
ヘルメットのシールドを開けると冷たい風が頬に突き刺さる
しかしあもん達は止まることは無かった
バイク仲間と走ることが堪らなく楽しかったからだ
鷲羽山付近に着いたのであもん達は小休止をした
そこでアンチさんは開口一番こう言った

『めっちゃ寒いやん!』
『もう、あかんわ~どっか、暖かい所に行きましょう~』

寒中ツーリングに誘ったアンチさんは極度の冷え症であり
アンチさんの顔は血の気が引いていた

『そうじゃの~この時間にあいとる言うたら吉牛しかないの』
当時この辺りでは24時間空いている飲食店と言えば
牛丼の吉野屋ぐらいしかなかった

『そこ行きましょ!別に腹減って無いけど』
アンチさんは涙ながらに言った
『なんやねん!』
とみんなは思ったがその意見に反対する者は居なかった
何故なら、みんな寒かったからだ
そして、寒さに震えながらオレンジ色の看板を目指した



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暗闇に輝く吉野屋の看板が見えてきた
何故か吉野屋が楽園のように思えた
店に入るとひとりづづ便所に直行しお茶を飲み一息をついた
注文した並みと味噌汁をみんなが食べた

『めっちゃ!うまいやん!』
誰もがそう感じた
『この店の牛丼!めっちゃ!うまいやん』
食いなれている吉野屋の牛丼が堪らなく美味しかった
それはまるで高級焼き肉店で食べる肉のようであった
しかし吉野屋は全国チェーン店の店であるため味はどこも同じである
普通の牛丼を高級焼き肉と錯覚するほどあもん達は限界だったのかもしれない
あもん達はこの日吉野屋で至福の時を過ごした
そしてこの日のツーリングはここで引き返すことになった
結局、あもん達はこの牛丼を食べために12月の深夜に走ったのであった
しかし、それがツーリングである
好きなバイクで気の合う仲間と走り至福を共有する
R2はチームであるが会費や定期集会というものは無かった
ツーリング企画があっても絶対参加では無かったし
R2に加入していない人も参加は可能であった
「走りたいときに走りたい人が集まって走る」というのがたったひとつの決まりだった


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福山に着くと夜が明け始めた
先頭を走っていたヒメノさんは福山に流れている芦田川沿いの道を選んだ
ヒメノさんはウインカーを出しバイクを止めた

『めっちゃ綺麗やで』
ヒメノさんは朝日を指差して言った
芦田川から昇る朝日をあもん達はしばらく眺めた
静かに昇る朝日を眺めながらあもんは何故かドキドキしていた


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バイクで走るのが好きな人が集まり目的地に行く
そこには達成感の共有があり仲間意識が生まれ始める
バイクに乗ったからこそ出逢えた仲間達
バイクで旅したからこそ出逢えた絶景達
あもんはバイクに乗り始めて多くの大切なモノを戴いた気がする
それが今でも大切な宝物として心の引き出しにしまっているのである



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後にこの日のツーリングは
『吉野屋牛丼ツーリング』と称され
R2の毎冬恒例ツーリングとなった

続く