この物語は『半フィクション』です
どれが現実でどこが妄想なのかは
読み手であるあなたが決めてください
この物語は1993年から1994年の
あもんの記憶の中の情報です
現在の情報とは相違がありますので
ご理解ご了承お願いします
バイクと車
この頃のあもんはそれに夢中だった
休みがあればR2ツーリングに参加し
夜に暇があれば京ちゃん、コージと車で遊んでいた
何も考えることなくただ道を走る…
理由も結果もいらない
ただ、その瞬間が気持ち良ければそれで良かった
そして何よりあの深夜の電車音が堪らなく怖かった
『ひとりでいてはいけない』
いつしかあもんはそう思うようになった
しかし、あるときR2のメンバーであるマツさんが言った
『やっぱ、旅は一人旅やで』
『えっ、ひとりって寂しくないですか?』
あもんは問うた
『なにゆうてんねん!ひとりやからいいんや』
『ええか~みんなとおったら、自分と向き合うことができへんやろ』
『ひとりで旅に出て自分の力を試さんといけんわ』
『あもん!ツーリングもええけどな~一人旅で自分を見つけることもええことやで』
その時のあもんは誰かといなければ寂しくて、あの眠れない夜を忘れる為に誰かとつるんできた
しかし、みんなの中のあもんという存在が
はたして本当の自分なのかも考える余地もなく
ただただ、瞬間の快楽に没頭していた毎日であった
あもんは改めて“自分”について考えてみた
今の自分は何ができる?
そんな問いから始まった自分探しでは結論は出なかった
そもそも、海田高校応援団員だったあもんはいったい何?から始まったひとり暮らし
気付けば、寂しさを紛らわせるために友達を作り遊んでいた
友達が近くにいるからひとりぼっちになるのが怖くもあった
そうか、もっとひとりになれ!なのか!!
そう思ったあもんは一人旅に出ることを決意した
知る人の居ない地でひとりになことこそひとりになれるのである
行き先は山口県である
実家のある広島からR2を西へ下り下関からR191を北上した
日本海が見え始めた頃日が暮れだしたのであもんはバイクを止めた
そこで生まれて初めてソロキャンプをした
まわりには誰もいなかった
あるのは目の前に広がる日本海だけだった
あもんは海を眺めた
絶えず近づき遠のく波をただ何も考えずに眺めていた
徐々に空が茜色に染まり今日という日が終わりに近づいた
今日は誰とも話はしていない
だけど自分とはたくさん話した
今まで楽しかったこと悔しかったこと辛かったこと
そして今からのことを…
自分自身とのデートの見届け人はバイクである
XJRと自分と過去の自分と未来の自分
一人旅は自分と向き合える時間が持てるのである
暗くなったのでテントに入った
テントの中は暗闇で遠く風が鳴いているのが聴こえる
一秒が長く感じた
時間ってこんなに多くあるのだなとも思った
そこであもんはもう一度過去の自分と未来の自分とお話をした
夏休みに入りあもんは一週間の一人旅をすることにした
旅先まだ未開の地である四国とした
福山港から四国行きのフェリーに乗った
香川県を経て鳴門海峡を眺め
徳島県を経て室戸岬で太平洋と出逢った
高知県を経て足摺岬まで快走し
愛媛県を経て佐田岬で九州を眺めた
四国には多くのライダーが走っていた
ソロライダー,チームライダー,ペアライダー
それぞれがツーリングという遊びで何かを見つけに旅をしている
自分のバイクで自分が運転をし未知なる道を走る
バイクを操るのは自分である
旅をしているのは自分である
未知なる道を開拓しているのも自分である
『何故?バイクで走るの?』と聞かれたら
『そこに道があるから』と何処かのライダーは答えたであろう
四国を一周したあもんは四国中央部を横断するルートをとった
四国の有名道路であるR439を走りたかったからだ
『与作』と言われるこの道は四国山地を横断している国道であるが
多くのライダーから『酷道』と噂されていた
1.5車線の山道が永遠と続き必ず何処かで災害復旧の工事をしている
よって多くのダンプ車がその道をさえぎり
神経を細かに使う道路である
まだバイクに慣れていないあもんは敢えてこの道を走った
心臓をバクバクさせながらあもんは走った
雨が降り始めた
そこには絶景はない
ただあるのはクネクネと曲っている1.5車線の道だけである
ガードフェンスの無い酷道をあもんは走った
『くそ!』『なんやこれ!』『きついの~』
あもんは自分に段々と腹が立ってきた
道の先は本当にあるのだろうかとも思い
何でオレはこの道を走っているのかとも思った
そしてようやく数時間をかけあもんは与作を越えた
残ったのは与作を走ったという結果しかない
しかしこの結果は間違いなく自分の結果であり
自分ひとりで走りきったとう結果である
あもんはただそれだけでも良いと思った
R439からR32に繫ぎあもんは大歩危小歩危(オオボケコボケ)へ向かった
ここは祖谷渓(イヤケイ)という勝景地であったが
あもんはどうしても見てみたいものがあった
それは祖谷渓に小便をする小僧である
祖谷渓を遠く眺められる高度まで走った
V字型に深く切り込ん流れている川を見ると吸い込まれそうになった
そこに祖谷街道開設工事の爆破作業の時に残ってできた岩があった
その岩の上では、かつて地元の子供達や旅人が度胸試しをしたという
その岩の先には小便小僧が立っている
あもんも度胸試しをした
流石に他の人がいた為小便まではしなかったが
この小便小僧に話しかけることができた
『おい、怖いけん、よう小便が出るじゃろ~』
『ワシもお前みたいに度胸のある男になるけんの~』
旅の目的は出逢いである
地の恵み、自然の造形、風土と歴史、人間の暖かみ
そして新たな自分
『何故?旅を続けるの?』と聞かれたら
『人間はひとつの旅でひとつ大きくなるから』
と何処かの旅人は答えたであろう
続く