あもん史 第五十章 演舞 第二節 | あもん ザ・ワールド

あもん ザ・ワールド

君へと届け 元気玉

ボブ西が『赤い風車』を演舞している時
あもんはステージ裏でスタンバイをしていた
血豆がつぶれ血に染まった2本のバチを持ち
あもんはボブ西の演舞を眺めていた
ボブ西の前には体育館満員の観客が座っていた
“大応援団の創造”を目標としていた第30代応援団にとって
この演舞の観客動員数がひとつの結果であると言える
あもん達は応援団の多くの伝統に加え新たな活動にチャレンジをした
野球の応援で臨時応援団の召集や応援体形の改造
応援団新聞や文化祭ポスターの作成などなど
応援団の為の応援団ではなく海田高校全校生徒の為の応援団の創造に向けて
あもん達は幹部として1年の間、情熱を捧げてきた
その結果が今目の前で証明されていた


この観客動員数を見てガッツポーズ
あもんが長らく夢見ていたことだった
しかし実際にステージ裏から見た満員の観客を眺め
あもんは不安に抱かれていた
ちょっぴり足も震えていた


あもんの最後の演舞である『創作太鼓』
誰からも教わったこともなく全て自分で創り上げた
揃わない太鼓により全体で合わせる練習を初めてできたのは2週間前であった
全員でリズムがピッタリ合ったのは3日前であった
手から血が出るほど太鼓を叩きリズムを身体に覚えさせた
だが、もう練習する時間は無い
あと数分で一発勝負の本番である
どんなにリズムを間違え失敗をしても
これから演舞する太鼓が“あもんの創作太鼓”となるのだ
バチが手から滑りステージ下に落ちたらどうしよう…
太鼓の皮が破れたらどうしよう…
リズムが全く合わなかったらどうしよう…
この観客にあもんの表現が伝わらなかったらどうしよう…
あもんは次第に余裕が無くなりバチを頭に当て塞ぎ込んでしまった


ステージ裏には魔物が存在している

するとあもんは頭を“バチッ!”と叩かられた
あもんの頭を叩いたのは女子応援団幹部のトモであった
『なに、カッコウつけよんね!はははは』
全てを分かっていたのか単なるおフザケなのかは分からないが
あもんはこのトモの一言で足の震えが止まった
『うるさいわい!はははは!』
あもんは笑いながら立ちあがった
『じゃぁ 行ってくるけん』
あもんはトモに言って歩きだした


ボブ西に演舞が終わりステージは暗闇となった

『創作太鼓・喧嘩太鼓』は
あもんと2年親衛隊員イグリ,1年親衛隊員ベジータで演じられる
3つの太鼓は1対2の割合で東西に分かれられた
無論、あもんが1でありリーダーである
始めは東西の太鼓は同調しリズムを刻み合っていた
しかしいつしかリズムの奪い合いが始まり
やがて太鼓の奪い合いが始まる
親衛隊長と親衛隊員の喧嘩が勃発するのである
先輩の背中を見続ける応援道ではあるが
それを追い越す為には後輩は先輩にぶつかるしかない
ぶつかって来た後輩を真正面から迎えるのが先輩の役目でもある
あもんはこの演舞を持って海田高校応援団を後輩へ受け継ぐ
受け継いだからには後輩は先輩を超えて欲しい
『創作太鼓・喧嘩太鼓』は
あもんのそんな想いから創られた


だがこの解釈は今初めて明かすものであり
演舞を見るお客さんも一緒に演舞をする後輩にも伝えてはいない
全ては演舞によって伝えたかっただからだ



あもんの応援道の証明が今から始まる


第30代海田高校応援団演舞
『創作太鼓・喧嘩太鼓』




後日談ではあるが
あもんの『喧嘩太鼓』は多くの応援団OBにより議論された
何しろ応援団演技として一種の型破りな演技であったからだ
『あれは応援団演技ではない』とか『演技途中で観客から拍手が起きなかった』とか
厳しい意見があったりして応援団OBとしては賛否両論だったらしい
それを冷静に聞いていたあもんは何も反論はしなかった
いや、むしろそう思われることがあもんの狙いであった
そしてその後日、あもんはある一般女子生徒に話しかけられた


『ねぇねぇ、あもん君、あの太鼓、誰に習ったん?』
『凄かったよね~ウチ、鳥肌立ったけん!』
『いや、自分で考えたんじゃけど~』
『どうじゃった?ショボかったかね~はははは!』


『うそ~ぶち良かったよ~ウチ、ドキドキしたんよ~ありがとうね~』

あもんはものすごく嬉しかった
あもん達は海田高校応援団の応援団では無い
海田高校生の応援団になれたんだと
その時やっと、実感したからである



あもん史 第五十章 演舞 第三節へ続く