あもん史 第四十六章 輪 | あもん ザ・ワールド

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君へと届け 元気玉

第30代海田高校応援団は着々と文化祭に向けて準備を行っていった
そしてようやく演舞プログラムが固まったのである



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1.マーチングフラッグ
  2年女子全員 鼓手 あもん
2.バトントワリング
  女子全員
3.赤い風車
  第30代副団長 ボブ西 2年生よっしー
  鼓手 たっひー

4.創作太鼓 喧嘩太鼓
  第30代親衛隊長 あもん 2年生イグリ 1年生ベジータ
5.創作演技 舞
  第30代団長 たっひー 鼓手 あもん
6.どじょうすくい
  第30代リーダー部長 EIG 鼓手 たっひー
7.第31代海田高校応援団幹部発表
8.勝利の拍手

  第31代団長 Q 鼓手 あもん
9.第30代団長挨拶
10.校歌斉唱

   リーダー第30代団長 鼓手 あもん

以上が第31代海田高校応援団発足記念演舞のプログラムである

ここに記述していない団員がひとりいる

1年生のカズである
カズのこの時の役割は旗手である
その名の通り団旗を演舞中掲げる役割である
海田高校応援団の団旗は約4m各でポールは8m程度と大きい
体に団旗用の革ベルトを巻き
ポールを腰の前にあるベルトの穴に差し
足をガニ股に開き、腰を落とす
いわゆる相撲のシコを踏む状態の姿勢で団旗を持つ
記念演舞は約1時間半続けられる
カズはこの時間の中ステージ脇の暗い所で
静かに団旗を持ち続けなければいけない


あもんも一年生のときに役割を果たした
誰も見ていない存在の中、孤独の戦いをしたのである
だけどその役割を終えたときは
ステージで演技した他の同級生よりも成長をした気がした


スポットライトを浴びるのが演技ではない
己と戦える場所こそ演技なのである




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(1年生の時のあもんです)


あもんはカズに団旗の持ち方を教えた
これは代々受け継がれている持ち方であった
『ええか~団旗は重たいけんの~持ち上げるときに気合を入れんと揚がらんで~』
『押忍と言って一気にあげるんじゃけど、気をつけんといけんことがひとつあるんじゃ~』

『揚げる前はポールの先は股に挟むんじゃけど、揚げる時に男の勲章に当てんようにずらさんといけん』
『ポールに挟まった男の勲章は使い物にならんようになるかもしれんで~』
『失敗したらぶち、痛いけんの~』

『押忍!』カズは真面目な顔で返事をした

発足記念演舞はステージ演技である為
演技する人だけでは演出はできなかった
各演技の合間に流れるナレーションは放送部に頼んだ
各台本を自分たちで考え放送部に読んでもらうのだ
もうひとつの裏方としてステージにスポットを当てる照明係りが必要であった
この役目は演技する団員にはできるものではない
だから毎年、応援団は一般生徒に頼むのである
あもん達は誰に頼もうかと思っていたら柔道部の“ノリ”があもんに言った

『スポットライト、是非、俺にやらしてくれ!』
『えっでもお前、軽音部でもあるけん、ステージがあるんじゃないんか?』
『大丈夫じゃ~俺らは演舞の時間をずらしてステージするけん』
『お前らにスポットを当てるのは俺じゃ~まかせとけ~』

“ノリ”と同じく大ちゃんも手を挙げてくれた

ノリと大ちゃんは柔道部員である
柔道着姿は放課後よく見かけたのであるが

あもんは彼らが柔道をしている姿を見たことは無い
あもん達と一緒に遊んでいるか校庭でギターを弾いているかだった

オリジナル曲でラジオに出演するほどのグループのボーカルだったノリは
自身が所属する軽音部のトリを他人に任せ
あもん達にスポットを当ててくれたのである


準備は着々と進められていった


あもんはナゴPから貰ったビデオをダビングしリズムや動きを真似て
そこに応援団の型を入れ込み喧嘩太鼓を創っていった
バチだけは3人個人に与えられるように部費で買ってもらい
和太鼓がそろわない時は椅子を叩いたり週刊少年ジャンプを叩いたりして練習をした
本番が近付くにつれてあもん達は舞台練習をするようになった
舞台の広さや感触を確かめ合ったのだが
本番さながらの演技をすると他のクラブも体育館で練習しているためバレてしまう
よって実践できるのは数少ない日曜日の練習だけだった


その日曜日の練習が終わったある日、あもんが言った
『おい!ベジータ!お前ひとりで舞台に立って演技しろ!』
ベジータとは今年入ったばかりの1年生の応援団員である
入団してすぐベジータと名付けられたのは決してベジータのように強そうだからではない
ただ単に額から髪の生え際にかけてベジータにそっくりだったからである
ベジータにとって初めての舞台演技である
あもんはベジータに舞台の恐怖に臆さない演技をして欲しかった
少しでも多く舞台で演技することによって恐怖を克服して欲しかったのである
しかもベジータはあもんと創作太鼓を練習していたため一人での演技練習はしていない
あもん達先輩が見守る中ベジータがどんな演技をするのかを見たかったというのもあった


ベジータがひとり舞台に立った
『ホス!』(ベジータは押忍がホスと聞こえる)

ベジータがかまえた
すると突然ベジータは叫んだのだ





『おのれ~カカロットめ~』

バン・バン・バン(型を変えた)

『ナッパ!待ていっ!!!』

バン・バ・ババン(拍子をつけた)

『サイヤ人は戦闘種族だぁぁぁあああ!』

『ホス!』

(終わった…)





あはははははははは!
先輩たちの笑い声が体育館に響いた
汗をかき少しハァハァ言って満足げなベジータにあもんは言った
『お前~そりゃ~演技じゃなくてベジータ劇場じゃぁ~』

あはははははははは!


その日からベジータは
舞台の上では無く練習後部室の前で
『今日のベジータ』という名目でメジータ劇場を毎日やらされた



しかし、ベジータは最後まで
スーパーサイヤ人になることは無かった…

応援団の練習は近所への騒音を考慮し校則で決まった時間に終了していた
しかし、あもん達は家に帰ることは無かった
地道に地味に練習をしていたと言えばうそになる

誰かが『写真撮るで~』と言えばひとり加わり




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『もう一枚撮るか~』と言えばもうひとり加わり

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『次ぎのポーズはこれじゃ~』と言えばさらに加わり


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『あははは!なんかおもしろいの~』と言えば全員集まった

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(前左より あもん、マユ、ボブ西)
(中左より エリ、ベジータ、わかば、なお)
(後左より Q、よっしー、たっひー、イグリ)
(ちゃっかり映っている最後尾 カズ)



そんな遊びをしながら今しかできないことをしていた

たった3年間の高校生活の中で
海田高校応援団が教えてくれる多くの“大切なこと”は
団員それぞれの形でその後の人生の礎になっていることは間違い無いであろう
だけど、この頃はそんな事を全く考えてはおらず
ただ“楽しいこと”に精一杯、情熱を注いでいたと思う


“血が騒ぐ”という比喩があるが
この頃のあもん達の血潮はまさにそれだったのかもしれない
その血潮はひとつの目標に邁進するにつれて結ばれていき
つよく大きな輪を創っていたに違いない
その大きな輪は17年経った今でも離したくはないと誰もが言う


T-BOLAN
『離したくない』



日が暮れ学校は定時制の生徒が通ってくる時間となっていた

『こりゃぁぁああ!お前らいつまで学校におるんじゃ~
はよう帰らんか!!!ヾ(。`Д´。)ノ』


毎日、校内を見回っている用務員のおじさんが怒鳴り込んできた

『は~い今から帰りま~すε=ε=ε= ヾ(*~▽~)ノ』

あもん達はそう言いながらチャリンコで逃げていった
そんな毎日が夏休みから引退まで続いていった