日本一
なんて魅力的なことばなのだろう
たとえ欲の無い人でもこの称号を与えられたら
誰もがうれしい筈である
日本で一番になるということは
たとえ、叶わなくても目指すことは誰にでも出来る
そう常日頃考えていた青年あもんは
「日本一」ということばに敏感に反応していた
日本一を目指して旅をしていたと言っても過言ではないだろう
「端」と「日本一」を目指していたあの頃は
予想できない未来に不安を持ちつつ
無謀ということばを蹴飛ばしながら
何かに挑戦していたのかもしれない
夢とは何?と深く考えもせず
惹きつけられるところに進んでいた青年あもん
それはそれで、かっこよかったと恥ずかしながら自負をする
3333段ある日本一の石段は
釈迦院は日本三高野のひとつで1200年の歴史を持つ
ここの石段は昭和34年に着工し昭和63年に完成している
29年の歳月を費やしようやく日本一の称号を手に入れたのである
この石段には国内の石ばかりではなく、全国の石も使われている
参道に表記されているから面白い
登山で脚力に自信があった青年あもんは
意気揚々と登山開始
しかし、意気消沈はすぐに訪れる
恐さを知らない恐さを実感し
ひとりの無力さを学び
日本一の偉大さをかみ締めた
日本一のその先にあるものに気づいたとき
青年あもんはちょっとだけ身長が伸びていた
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『島国からの贈物』
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『3333段』
1994日15月8年
日本一の石段 3333段
日本一という言葉にひかれ
ここまでやってきた
ただ日本一を確かめたくて
0~1000段
日本一に登っていることがうれしくどんどん登る
ペース配分なんか考えず前ばかりをみてどんどん登る
それがすごく楽しかった
それでよかった
でも1000段目
ハアハア言っていて汗びっしょりになっていた
休憩して初めてしんどいと気づいた
十分無理していた
1000~2000段
ペース配分しなきゃとゆっくり登る
でもすぐ飽きてしまいペースが崩れる
水を飲んでは汗が出る
苦しいばかり
そして永遠に続く石段
同じ動きに耐えられない
途中吐きそうになる
遠い遠い2000段目だった
2000~3000段
今度はふと上を向いて歩いてみた
するとどうだおどろいた
周りにはこんなにすばらしい木々が
虫たちの強い強い応援が
あれほどいやだった日差しも気持ちよく感じる
ペースはすごく遅くなっている
手摺なんか使うかと思っていたのが今はどうでもいい
すれ違う人と笑顔で挨拶をし
小学生と抜きつ抜かれつを楽しんでいる
なんとまあいい気持ちだ
近い近い3000段だ
3000~3333段
もう頭がボーとしていて
まっすぐ歩いていない
それでももう見えている3333段に急いだ
そこに何があるか知りたくて
そして 3333段
そこには何もなかった
ただあったのはきれいな景色と気持ちのいい風だけ
日本一という言葉の先にはただの景色と風だけ
だけどそれでもいい
それだけでも…
だから帰りはただ降りただけ
降りてみるとそこには
ガタガタ震える足と
しぼれるほどのTシャツだけが残っていた