ラシマルは、彼女に向かって鼻を鳴らし始めました。

すると、彼女は、ラシマルに声を掛けました。

「あれ、そろそろ散歩の時間だね。わかった、行こうか」

そういってラシマルは紐をつけてもらい、二人で出ていきました。

外に出ていくとき、ラシマルは 「どうだい? スゴイだろ?」 と自慢げに鼻を鳴らして出ていきました。

ボクは、誰もいなくなった部屋で、何度も試してみました。

でも、一度もうまくできませんでした。

ボクは、ただひたすら彼女の幸福そうな姿を見ているだけでした。

すると、ラシマルが話しかけてきました。

「人間でいう 『ハナウタ』 という技は、俺も使うんだぜ」

ボクはびっくりしました。

鼻歌を使うのはヒトだけじゃない……?

ありえない……。

そんなわけはない……。

だって、彼はヒトではない。

「イヌ」 という種族であり、そんなすごいことができるわけない。

もし、彼ができるのであれば、彼女と会話ができておかしくない。

そして、彼ができるぐらいなら、ボクだってクマのぬいぐるみだ。

同じことができるに違いない。

でも、どうやってできるというのだ?

これが出kるようになれば、彼女とお話しできるようになれるかもしれない……。

「あれ、疑っているのか? よし、じゃあ見本を見せてやるよ。ちょうど今から散歩の時間だ。いいか?」

ボクはゆっくりとうなずいた。

 

彼女は、いつも鼻歌を歌っていました。

師匠も、いつもご機嫌なときはそんな感じだから、ボクは知っていました。

「まだ鼻を鳴らしているんだ。 なら、大丈夫だな」

ラシマルは、そっとつぶやきました。

「どういうこと?」

ボクが訊くとラシマルは、

「ああやって鼻を鳴らしている間は、仲がいい状態が続いている証拠なんだよ。きっと、恋人とうまくいってるんだろうな」

「そうなんだ」

ボクはそうつぶやくと、静かに彼女を見ました。

普段とは違って、お皿を並べるだけでも楽しそうにしていました。

そういえば、師匠も自分の人形が売れた時は、鼻歌をうたいながらお酒を飲んでいたことを思い出しました。

「ヒトって、いいねぇ。こうやって自由に表現できるから」

ボクは、それができないことをちょっと悔しく思いました。