「クラウンヒルズなんてすげーよなぁ。高級ホテルでしょ?長野さんのイメージとあんま結びつかねぇけど」
潤の店を出て、駅へ向かいながら櫻井くんがぼそりと呟く。
「なんかね、高校の同級生が働いてるんだって」
「へぇ」
長野さんが興奮した様子でやってきたのを思い出して、思わず笑ってしまった僕を櫻井くんが不思議そうな顔をして振り返る。
「何笑ってんの?」
「うん。ごめん、なんでもない」
『ホテルに打ち合わせに行ったらさぁ、櫻井くんが大人になって落ち着いたらあぁなるんだろうなぁって人がいてさ。さすがに写真は撮れなかったけど、当日もあの人がいたら、櫻井くんと写真撮ってもらいたいなぁ』
長野さんが言う『大人になって落ち着いた櫻井くん』みたいなその人がどんな人なのかって、密かに会えるのを楽しみにしてるなんて、櫻井くんには言えないから。
「てかさ、クラウンヒルズでさっきのスーツだったらさ……ディナーショーか年末の歌番組の中継かなんかですか?って感じだよな、マジで。
あんな派手なスーツ、買う人いんのかなぁ……いるから置いてあるんだろうけど、勇気あるよなぁ」
「くふふ、うん。あれ、普通に着てる人いたらびっくりするよね」
話題が変わったことに少しほっとしていたら、櫻井くんが潤が選び直してくれたスーツの入った『J's』の紙袋をガサリと揺らした。
ぶつかりそうでぶつからない距離にある櫻井くんの手が、ほんの少しだけ距離を縮めて僕の手に触れる。
いつもみたいに少しだけ開いた指の間に手を伸ばして、櫻井くんの左手の小指に人差し指を絡ませた。
「結婚式に行くのなんて初めてだから、なんか緊張すんな」
指が離れないように、歩く速度を緩めた櫻井くんが言う。
「僕も初めてだよ」
「え……そうなの?」
僕を振り返って立ち止まった櫻井くんにぶつからないように、僕も足を止める。
「櫻井くん?」
「そっか、初めてなんだ」
そう言って、櫻井くんの口角がゆっくりと上がっていく。
「櫻井くん、なんか嬉しそう」
「うん、嬉しい。めっちゃ嬉しい!相葉さんの『初めて』が俺と一緒って、超絶嬉しい!!」
ニカッと笑った櫻井くんが僕の手を引っ張って、今度はしっかりと全部の指を絡めて繋ぎ直した。
また歩きだそうとした櫻井くんの手を引っ張って引き止める。
「なに?」
「櫻井くんといると『初めて』ばっかりだよ?」
「……え……」
「櫻井くんは、僕にたくさん『初めて』をくれる人だから」
去年の夏、櫻井くんに出逢ってから……
僕の世界はどんどん変わっていく。
何故か真っ赤になった櫻井くんが、『ちょっと……』って、焦った声で呟いて、僕の手をグイグイ引いて歩いていく。
「櫻井くん……?」
大通りから1本入った小さな路地に入って、櫻井くんがようやく足を止めた。
「どうし……」
「反則だから!」
「え?」
「そんな可愛い顔して、そんな可愛いこと言うなんて、マジで反則だから!」
「何言ってるのか、全然わかんないんだけど……」
僕の方が年上だし、そんなこと言いながら、顔を赤くして僕を睨むような顔をしている櫻井くんの方がよっぽど可愛いと思うけど。
「いや、マジで反則。俺をコロス気か」
「だから、全然話が見えな……」
ぎゅう、と強く抱きしめられて、僕の心がどくんと音を立てる。
「好きだよ、相葉さん。俺、ホントにどうしようもないくらい、相葉さんが好きだ」
誰かの腕の中で、こんなに温かい気持ちになるのも、こんなに泣きたい気持ちになるのも、櫻井くんが初めてで……
『好き』って気持ちがこんなに大切だって知ったのも初めてで……
こんなに鼓動が早く脈打つって教えてくれたのも、
好きな人とするキスがあったかくて、どんなに幸せな気持ちになるのかっていうのを教えてくれたのも、
僕にたくさんの初めてを教えてくれるのは、櫻井くんしかいなくて……
「うん。僕も櫻井くんが好き」
「だから、俺をコロス気かっての」
眉毛をへにゃって下げて笑った櫻井くんが、キョロキョロと周りを見回してから、ちゅって触れるだけのキスをした。