俺を見上げて戸惑う瞳に、心が揺れる。
まだだろ?と思う俺と、今いけ!って思う俺と。
どうしても手に入れたいって思うなら、迷ってる暇なんてないんじゃないかって。
どうしても手に入れたいなら、ちゃんとプロセスを踏んで行くべきだろって。
どっちが正しいか、なんてもう分からない。
こんな感情に理屈なんて通じないって、初めて分かった。
マグカップを置いて、頬に触れる。
黒目がちな瞳が俺を見上げて細かく揺れる。
「勘違い、してもいい?」
そう聞いた俺を、揺れていた瞳が捕らえる。
「……勘違いなんかじゃ、ないかも」
そう答えて、真っ直ぐに俺を見て綺麗に微笑んで……
ゆっくりと長い睫毛がおりていく。
そんな返しがくるなんて思ってなかった俺の心臓は、痛いくらいに激しく鼓動を刻む。
触れたい
手に入れたい
その想いを伝えて良いんだろうか、と思うのに、身体は勝手に次へと進んで
ゆっくりと近づいて、柔らかな唇にそっと触れた。
「ぅわ!」
「わっ!」
柔らかな感触に触れた瞬間に、足になかなかの衝撃をくらってよろける。
「なんだよ!ダイキチ!」
「あはは、六華ちゃんもごめんね?ヤキモチやいちゃったかな?」
俺の足にタックルしてきたのはダイキチで、達也の膝には六華が前足をかけて、顔を覗き込むように身を乗り出していた。
俺と達也が離れると、2匹は俺たちの脚の間に並んでお座りして、俺と達也を交互に見上げる。
「くふふ、ごめんね?ふたりとも大好きだよ」
そんな2匹をわしゃわしゃと撫でながら、達也が笑う。
「なんだよ、邪魔すんなよ」
俺もしゃがんで、2匹をわしゃわしゃと撫でていたら、俺を見て微笑む達也と目が合って、どきんとした。
「修介さん」
「なに?」
「僕……初めてだけど、いいですか?」
「え?」
まだ撫でられたそうな六華とダイキチを両手で撫でながら達也を見つめる。
「だから、僕……カノジョとか、いた事ないんです」
「あぁ……そんなの、気にならないっていうか、むしろ嬉しいけど……お前はどうなの?」
「え?」
「俺はお前が好きだって、お前が欲しいって、お前の隣にいたいって思ってるけど、お前はどうなの?
俺、オトコだけど、それでもお前のこと抱きたいって思ってるけど、それでいいの?」
「だっ……」
目を丸くして、口をぱくぱくさせている達也に、にっこりと笑いかける。
「動物の診断は迷いがないのにさ……その他に関してはハッキリしないって言うか、人の気持ちとか考えすぎなんだよ。
自分のことはいつも二の次って、そういうことが出来るのってすごいことだし、人間として尊敬するけど……
でも、俺にはなんでも言って欲しいんだ。ワガママでもなんでも、俺には全部言って欲しい」
ぱちぱちと音がしそうな瞬きをしてから、ふわりと笑って達也が言う。
「くふふ、修介さん、かっこいい」
「へ?」
「ますます惚れちゃうかも」
「え?」
またしても思いがけない返しに、どうしたらいいのか分からなくなる俺。
そんな俺を見て、達也がまたふわりと綺麗に笑った。