「……雪」
空を見上げた僕につられるように、櫻井くんも空を見上げて『寒いはずだなぁ』って呟いた。
少し前を歩くカズが、『雪とかありえないんですけど』って文句を言っている声が聞こえる。
「なぁ……酒、飲めるようになったら、何作ってくれんの?」
「え?」
「さっき、飲めるようになったら作ってくれるって言ったじゃん」
ゆっくりと歩き出した瞬間に、櫻井くんが僕を振り向いた。
「ふふ、うん。ノンアルコールの作り方は分かんないんだ。だから、飲めるようになったら、ね」
僕が櫻井くんに作りたいカクテルは、入れるリキュールにも意味がある、から……
他のものじゃ、ダメなんだ。
「まだ、あと2年と25日もあんだけど……」
「くふふ。うん、そうだね」
不満げに口を尖らせた櫻井くんがそう呟いたけど、でもきっと、櫻井くんといたら2年と25日なんてあっという間に過ぎていく。
「あれ、なんかいい雰囲気じゃん」
「邪魔すんなよ、エロじじい」
「だから!エロでもじじぃでもねぇって言ってんだろ!」
もう、何かのネタみたいになっている2人のやり取りに苦笑する。カズと智がいいコンビだなんて言っていたけど、潤と櫻井くんもかなりいいコンビだ。
「で?雅紀はこいつに何を作ってやんの?俺にも作ってくれんだろ?」
櫻井くんの向こうから、潤が楽しそうにそう言って笑う。
「え!なんでだよ!ずりぃじゃん!」
手を繋いだままで櫻井くんが動くから、僕の身体もあちこちに引っ張られるけど、それもなんだか楽しくて。
いつもはクールな潤が、櫻井くんといると小学生みたいだし。
「潤は、何をくれるの?」
「そりゃ、ポートワインに決まってんだろ」
……潤はクールな奴だと思ってたんだ。
僕との事も、割り切って遊んでるんだと思ってた。
そう思っていたかったんだ。
「あー、じゃあ、櫻井くんと同じやつを作るよ」
「え!同じ?!」
驚いた顔の櫻井くんの向こうで、潤が俺を見て、にやりと笑う。
「『ブルームーン』」
ごめんね、潤。
「うっわ、マジかよ」
手を伸ばせたら、良かったのかもしれない。
潤の優しさに。
潤の想いに。
『ブルームーン』のカクテル言葉は『出来ない相談』。
わざとらしく驚いた顔をした潤が、優しく微笑んでから背を向けて、カズの背中に飛びついた。
その背中を目で追っていたら、解けかけた指がもう一度きゅっと握り直されて、僕は振り向く。
「相葉さん……」
キミは、きっと知っている。
『ブルームーン』のもうひとつの意味を。
そして、僕がずるい選択をしたことも。
僕を真っ直ぐに見つめる瞳を見つめ返すのが怖くて、繋がったままの指先に視線を落とした。