「潤くん、あれ、やってかない?」
レポートだなんだって理由をつけて外に出たがらないかずを気分転換だって映画に連れ出した。
映画館の入っているショッピングモールのゲーセンで、かずがあれあれってクレーンゲームを楽しそうに指さした。
「かず、昔、あれ上手かったよな?」
「んふふ。ねぇ、やろ?俺、ペンギンとアザラシとジンベイザメ欲しいな」
マジかよって笑う俺の手を引いて、かずが『ここは俺の奢りね』って、500円玉を両脇のスロットに投げ入れた。
「え、俺もやんの?」
「当たり前でしょ。1個も取れなかったら罰ゲームね?」
「なんだよ、それ。てか、罰ゲームってなに?」
「そうだなぁ……今日一日、相手の言うことに絶対服従、とか?」
「うわ、なんか怖ぇな」
ニヤリと笑って俺を見上げた薄茶色の瞳に、どきんとした。
微かに見えた、色。
外に連れ出したのは俺なのに、早く家に帰って抱きしめたいと思うなんて……矛盾してんなって苦笑する。
「よし、負けねぇからな」
「ふふ。頑張って」
余裕ありげなかずを横目で見ながら、慎重にアームを動かした。
「あぁ!くっそー!!!!!」
「ほんとーに潤くんって、負けず嫌いだよね」
ペンギンとアザラシとジンベイザメのぬいぐるみを抱えて、かずが笑う。
500円じゃひとつも取れなくて、もう2回戦やったのに、結果はかずの圧勝で……
欲しかったぬいぐるみが取れたからなのか、勝負に勝ったから嬉しいのか、にこにこしているかずが可愛すぎて目のやり場に困るんだけど。
「じゃあ、約束通り、俺の言うことには絶対服従ね?」
「……わかってるよ。なんなりとお申し付け下さいませ」
「ふふ。そんな怖い顔しないでよ」
ぬいぐるみを抱えたままのかずの手が、俺の手に絡まった。
「俺、もう疲れちゃったから、帰りたい。昨日もシャワーしただけだから、いい匂いの泡のお風呂にも入りたい。あと、腰もだるいからマッサージもしてね?」
「あー、はいはい」
思ったよりも可愛らしいお願いごとに、自然と顔がにやける。そんなお願いごとならなんの問題もない。
「あ!その前に弁当買って帰ろ?」
「え?弁当?なんで?なんか食べたいものがあったら作ってやるけど?」
「俺が弁当って言ったら弁当なの!」
『絶対服従!』って笑うかずに言われるがままに弁当だの惣菜だのを買い込んで、その荷物を全部1人でぶら下げてマンションに戻る。
「はーーー、重かったー」
「ねー、潤くん。お風呂早く入りたい。汗かいちゃったし」
「まじかよ、人使い荒いなぁ……」
「あわあわのやつ、レモンの香りのがいいなー」
「はいはい、レモンね」
棚からレモンの香りのバスジェルを取り出して、『絶対服従』なんて言ったって、いつもとたいして変わらないよな、と思いながらバスタブにジェルを入れて栓をひねった。
俺が勝っていたら、かずに何を言ったんだろう……
「ねぇ、潤くんだったらどうしてた?」
「え?」
いつの間にか隣に来ていたかずが、俺を見上げて微笑んだ。
心の中を読まれたようで、どきんとする。
「1日、俺が何でも言うことを聞くって言ったら、何がしたい?」
薄茶色の目が誘うように笑って、白い腕がするりと俺の腰に回された。
ごくり、と唾を飲み込んだ俺に、薄い唇がゆっくりとカーブを描いた。
「来て」
その言葉に弾かれるように身体が動く。
細い身体を引き寄せて抱きしめて、キス。
「じゅんく……」
キスの合間に漏れる声さえ、俺のモノにしたい。
「今日はずっと、俺のこと抱いていて?」
「え?」
予想外の言葉に驚いて見下ろせば、穏やかな笑顔でかずが俺を見上げていた。
「今日は、ずっと、だよ。
風呂でも、ベッドでも、ソファーでも、だよ
明日までずっと……ずっとだよ?」
「そんな体力ねぇよ」
「なくても、して。そのために弁当買ってきたんだから」
「なんだよ、それ……今日はどうしたんだよ?」
「だって……今日は特別な日でしょ?」
「今日?」
「8月30日だよ、潤くん」
「……あ……」
「忘れてたの?」
かずが俺を引き寄せて唇の上で笑う。
「お誕生日おめでとう、潤くん」

