「せっかく川に来たから釣りでもするか」
狼を見送ったあと、サトシとぷらぷら歩いて川べりに座り込んだ。
「最初から、それが目的なんじゃないの」
「んふふ、バレたか」
腰につけた小さなカバンから、針と糸を取り出して、近くにあった枝に結びつけながらサトシが笑う。
「あ、ほら、あそこにいる」
「ホントにショウは目がいいな」
ショウが指さしたあたりに針を投げ込めば、すぐに竿がしなる。
「今日の晩メシは豪華になりそうだな」
ご機嫌で糸を垂らすサトシの横で、ショウは寝転がって空を見上げた。
青空に浮かぶ、白い月。
ぴち、と耳の近くで魚が跳ねて飛び起きる。
「あ、手が滑った」
ごめんごめんと謝りながら、サトシが魚を拾い上げて、さっき作った生簀に入れた。
魚にしてみたら、俺たちは害獣どころじゃなくて怪獣だよな、と苦笑する。
「ショウは本当に村を出たいの?」
突然問いかけられて、サトシの背中に視線を移した。
「……うん……」
ずっと感じている違和感。
日に日に増すそれを、どうしても拭い去ることができないでいる。
「18の誕生日が来るまでは、村にいなきゃいけないらしいけどね」
「次の満月の日か」
「うん。具体的なことは何も考えてないけど、ホントに村を出ることにしたら、サトシのところにはちゃんと挨拶に来るよ」
「うん。ショウならどこに行っても大丈夫だと思うよ」
ショウを振り返って、サトシが柔らかく笑う。
その笑顔につられて微笑みながら、会えなくなって寂しいと思うのはサトシだけだな、と、そんなことを思う。
ショウが友達と呼べるのは、サトシだけだ。
小さい頃、一緒に遊んでいた村の子どもたちとは、大きくなるにつれ、次第に距離が出来て行った。
『赤ずきん』の曾孫であるということが、そんなに特別なことなんだろうか。
サトシが釣った魚を手際よくシメて、縄に通していくのをぼんやりと眺める。
人間だってこうやって命をとって食べているのに、何故人間は良くて、狼はダメなのか。
考えれば考えるほど、分からなくなってくる。
「どした?」
「うううん。なんでもない……もう終わり?」
「ん。メシに必要な分は釣れたから」
よいしょ、と言いながら立ち上がるサトシと同時に立ち上がる。
「あのさ……ショウ……」
歩き始めたサトシが、ショウを振り返る。
「いくら悩んでも、正解なんてないんだよ。だから、自分が正しいと思ったことをするしかないんだ」
「……サトシ……」
眉毛の下がったショウの顔を見て、サトシも眉毛を下げて笑う。
「今の、かっこよかったな、俺!」
「自分で言うなよ!」
声を出して笑って、少し軽くなった心と足取りで、ショウはサトシの背中を追いかけた。