「首輪って……」
さっきの会話を思い出して、苦笑する。
まさかホントに首輪を持ってきたわけじゃないだろうけど。
「ん……おおの、さ……」
塞がれた唇が離れた隙に話そうとするけど、またすぐに塞がれる。
普段はふにゃんとしてて、そんなとこ全然見せないのに。
突然オトコに切り替わるスイッチは、どこにあるんだろ。
キスの最中に突然手を強く握られて、驚いて身体を引いた。
「ごめん」
ようやく離れた唇が、そう言って綺麗にカーブを描いて上がる。
だけど、俺の左手は強く握られたまま。
「……痛いんですけど、手」
「あぁ、悪ぃ」
「だから、痛いって……」
まだ俺の手を握ったままで、大野さんがポケットから何かを取り出した。
「さすがにホンモノの首輪つけて、繋いでおくわけにはいかねぇからさ」
「……ちょ……」
なにしてんのって言葉は、声にならなかった。
するりと左手の薬指に滑り込んだ冷たい感触に、心臓がぎゅうって音を立てて縮こまって、そこからまた一気に弾けるように動き出した。
「おおの、さん……」
「お前は、俺のモンだからな」
「大野さん、なんで……」
「ずっと渡そうと思ってたんだよ。けど、なんか……恥ずかしいじゃんか、改まってこういうのさ……」
ぽりぽりと首の後ろを掻いて、ふにゃんって笑う。ちょっとヨレたTシャツと緩いスウェットに、まぁるくなった背中。
「ホントはちゃんとビシッと決めるつもりだったんだけど……お前帰って来んの、遅ぇんだもん」
「……てか、マジでもう少し気ぃ遣えや!!部屋着にしたってもうちょっとマシなのあんだろ?!」
目頭が熱くなるのを誤魔化して、文句を言いながら笑う。
ホントに、素直じゃない、俺。
「んふふ。いいじゃん、別に。今さらだろ」
「そんなんだから、モテないんだよ」
「モテる必要ねぇだろ。お前しか要らねぇもん」
『ん』って差し出された箱の中には、ぽつんとひとつ残された片割れの指輪。
それをそっと持ち上げて、手のひらの上に置いた。
「ホントに、いつから持ってたの……黄ばんでるじゃん、箱」
「んふふ、いつからかなぁ」
だいぶ前だよなぁって、笑っている大野さんの左手をそっと引き寄せて、薬指に指輪を滑らせた。
俺の大好きな、綺麗な手。
俺のことを好きだって伝えてくれる、手。
その手に、お揃いの指輪が光る。
こんなもの無くたっていいって思ってた。
こんなのに縛られるなんて、くだらないって思ってた。
「お前は一生、俺のモンだからな」
左手を繋いで、大野さんが優しく微笑む。
「バカじゃないの……一生とか」
俺の言葉に、大野さんが口を尖らせた。
繋がれていない右手で、大野さんの頬に触れる。
「……永遠に、だよ」
「へ?」
なんでだろう。
アナタを想う気持ちだけは、ずっと変わらないって自信があるんだ。
「『一生』なんかじゃ、全然足りないんだよ」
ニヤリと笑ってみせてから、大野さんの顔を引き寄せて、そっと唇を重ねた。
