『お前の『まーくん』、やっぱすげぇな』
まーくんから『いま、家に着いたから』って、消え入りそうな声で連絡があってから数分後、電話口の向こうで楽しそうな大野さんの声が聞こえる。
『普通、逃げるとか隠れるとか、なんかもっとこう、さ……』
そう言って、何かを思い出して『んはははは』ってひとりで笑う。
「なんなの、さっきから。気持ち悪いんですけど、思い出し笑いしてんの」
『あの子、コンシェルジュデスクの下に潜ったんだよ。櫻井、すげぇ驚いてたなぁ』
あいつのあんな驚いた顔、初めて見たよって、またひとりで楽しそうに笑ってから、『なぁ』って低い声で俺を呼ぶ。
「なに?」
『気をつけろよ、お前も』
「は?」
『お前、ちっさいし、力弱いし、無駄に色気振りまいてるからさ』
「小さいって……大野さんだって俺と大して変わらないでしょ。それに、何?無駄に色気って」
『とにかく、気をつけろ』
「そんなに心配なら、首輪でもつけてつないでおいたら?」
『はぁ?』
「じゃ、運転中なんで」
『おい!かず……』
素直じゃない、と思いながら手を伸ばして画面をタップして通話を切った。
心配してもらえて嬉しいとか、言えるわけない。
だけどきっと今頃、素直じゃねぇなぁって、アナタも笑ってるでしょ?
ふにゃんって笑うその笑顔を思い出して、口元が緩む。
「あーあ、またやられちゃったなぁ……」
昂っていた心が落ち着きを取り戻す。
狙っているつもりは無いんだろうけど、こういう時はいつも大野さんに助けられるんだ。
もう一度、大野さんのふにゃんとした笑顔を思い出して、ふぅ、と息を吐いてからハンドルを握り直した。
「あれ……」
まーくんからボイスレコーダーを受け取って、中身を確認して社長に報告して……なんてやっていたら、マンションの駐車場につく頃には、すっかり街が寝静まっていた。
なのに何故か、電気がついている俺の部屋。
「電気、消し忘れたかな……」
首をひねりながらドアを開けたら、見慣れた革靴が玄関にきちんと並べて置かれていた。
「……なんだよ」
自然と上がる口角を手の甲で押さえて、呟く。
ホントに、素直じゃない。
「おぉ、おかえり」
ソファーから俺を振り返って、ふにゃんって笑うアナタに、本当は今すぐにでも抱きつきたいのに。
「こんな時間に何してんすか、ヒトん家で」
ネクタイを緩めて、ジャケットをハンガーに掛けながらそう言えば、ぺたぺたと歩く音がして、後ろからふわりと抱きしめられる。
「首輪、つけに来たんだよ」
「え?」
ちゅ、と音を立てて首筋にキスをした大野さんが、俺の肩を掴んで、ゆっくりと向きを変えた。