「あった?」
しゃがみ込んで、いろんな瓶を手に取ってはひっくり返しているサトシの背中に声をかける。
「これがいいかなぁ」
サトシが小さな瓶を持ち上げて、天井から漏れる光に翳した。
キラリと陽の光を反射して、薄い青緑色に輝いたそれは、確かに綺麗ではあったけれど……
「それが人魚の鱗?」
「んふふ」
ショウの問いには答えずに、サトシが小さな瓶を大切そうに手のひらで包んだ。
サトシの嬉しそうな姿に、ニセモノなんじゃないの?と言いかけた言葉を飲み込んで、ふと目に止まった赤い石の付いた指輪に手を伸ばす。
「触らない方がいいよ」
サトシの声に、触れる寸前で手を止めた。
「それ、血の石だ」
「血の……石?」
「呪いの石だよ」
『呪い』の言葉にビクリと身体が震えて、慌てて手を引っ込める。
最近、どこかでそんな言葉を聞いた気がする。
しかも、俺に関係があるような……いや、そんな事あるわけない、と小さく首を横に振った。
「物騒なこと言うなよ」
「んふふ。ショウも呪いは信じてるんだ?」
「わざわざ呪いって言われた物に触らないだろ、普通。しかも『血の石』って……」
嫌な名前だなって呟いたショウに、そりゃそうだよなぁって、サトシがのんびりとした声で答える。
「うん。今日はこれだけでいいや」
サトシが小さな瓶に驚くほどの銀貨を払って、腰につけた鞄に大切そうにしまうのをショウは黙って見ていた。
自分にはそんな価値のあるものに見えないけれど、きっとサトシにはそれなりの価値があるものなんだろう。
「お待たせー。じゃあ、行こうか」
満足気なサトシに促されて、テントの外へ出た瞬間に、周囲に漂う異様なにおいに驚いて足を止める。
バザルの中を歩く街の人たちもザワザワと落ち着かない様子で、何があったのかとサトシとショウは顔を見合わせた。
「お前、『赤ずきん』の曾孫なんだろ?だったら、アイツをやっつけてくれよ。すげぇ、でかいヤツが罠にかかったんだよ」
男がニヤニヤと笑いながら、ショウにそう声をかけながら通り過ぎる。
赤ずきんの曾孫だからって、狼退治がしたいわけじゃない
ぎゅ、と拳を握りしめて俯いたショウをサトシが心配そうに覗き込んだ。
「ショウ?」
風に乗って漂ってくるにおいは、罠にかかった狼の血のにおい。
『狼だけが悪者なの?』
……聞こえてきたのは、誰の声だろう。
「ショウ、行こう」
サトシが優しくショウの背中を押したけれど、ショウはピクリとも動かない。
「ショウ?」
もう一度サトシが声をかけた瞬間、立ち並ぶテントの奥にある広場の方から悲鳴が聞こえて、たくさんの足音がこちらへ近づいてくる。
「ショウ!!!」
呆然と立ち尽くすだけのショウの腕をサトシが強くひいて、テントの隙間に押し込んだ。
目の前をパニックになった人の波が通り過ぎる。
「罠が外れたかな」
サトシが呟いた声に、ショウはハッとしてサトシを見た。
「……なんだって?」
「狼の罠が外れたみいだ。表通りは危ないから、裏から帰ろう。今日はもう、どの店も店じまいだろ」
欲しいものは手に入れたからなのか、ちっとも残念そうじゃない声色でそう言うと、サトシはテントの隙間を縫って歩いていく。
ショウは慌ててその背中を追いかけた。
罠が外れた狼は、どこにいるのだろう。
銃や弓矢を持って走る男達の声が、遠くに聞こえる。
無事に森へ帰ってくれればいいと思った自分に驚きながら、ショウは空を見上げた。