「バイト?」
「ん。翔くん今、昼間は教習所行ってるでしょ?今、俺がバイトしてる所なら、夜だけのバイトで結構稼げるよ」
「やばくないの?それ」
「やばくないって、ダイニングバーだし。時間もちゃんと22時までだし」
智くんがふにゃんって笑って、メロンパンを齧った。
「カクテルの作り方教えてもらえるし、面白いよ?飲めないけど、大人になった気分っていうかさ。ノンアルコールのカクテルとかもたくさんあんの!てんちょーが俺の友達でイケメンなんだったら雇ってくれるってよ」
『オトナ』って言葉がひっかかる。
大学生になったらと思ってたけど、それじゃまだ酒も飲めない。まだまだ、ガキな、俺。
あの日から、図書館に行けてない。
しばらく寝込んでたし、その後は推薦入試があって、無事に合格して……図書館へ行く理由が見つからなくなって、足が遠のいた。
そんなのは、表向きの理由でしかないって、自分が一番分かってるんだけど。
本当は相葉さんの顔を見るのが怖かった。
「今度、お試しで来てみたら?」
「……じゃあ、智くんがいる日に行ってみる」
「じゃあ、今日行こうよ」
んふふって笑って、智くんが立ち上がった。
「今日?」
「善は急げ、でしょ?今日は予定あんの?」
「いや、何もないけど……」
「じゃ、行こうよ。今から」
「い、今?!」
自由登校だし、学校にいる理由もないっちゃないけど、今の今からって、ハードル高すぎねぇ?
「てんちょーのマジックもすげーんだよ」
「ちょっ……待って、智くん!」
歩き出した智くんを慌てて追いかける。
マイペースな智くんには、色々驚かされることが多いけど、バーでバイトとか、一体どこからそんなことになるんだか……
「なんかさ、カクテルにも意味があんだって」
「へぇ」
「この間はオッサンがお兄さんにカクテル奢って、そのまんまふたりで出ていっちゃってさ……
そのカクテルの意味が『貴方は魅力的』って意味らしくてさ」
そのお兄さん、すげー美人だったから、オッサンの気持ちもわかんなくはないけどなぁーって智くんの声が、少し遠くに聞こえる。
「なぁ……そのお兄さんって、どんな人?」
少し前を歩いていた智くんが振り返る。
「あれ、翔くんって、そっちも興味あり?」
「ちげぇよ」
だけど、なんでか胸がざわつくんだ。
「結構よく来てるよ、そのお兄さん。てんちょーの幼なじみとかって言ってたし」
今日も来るかもねって智くんの言葉に、どくんって心臓が大きな音をたてた。