「怒られちゃう、かな」
マンションの手前で車を止めた。
サイドウィンドウから見上げて、部屋の電気がついているのを確認した。
手の中のスマホをしばらく見つめてから、表示されていた名前をタップする。
出ないかもしれないな…
あの人は自由気ままな人だから。
もう諦めようかと思った瞬間に、プツッと小さな音が聞こえた。
『どした?』
もしもし、も何もなく、突然始まる会話に口元が緩む。
「駐車場、開けて」
『え?』
「待ってるね」
それだけ言って通話を切って、エンジンをかけた。
きっと今頃、ギョサンに足を突っ込んで、ぺたぺた音を鳴らしながら廊下を歩いてる。
どんな顔、するかな。
ふにゃんって、笑ってくれるかな。
電話に出たってことは、歓迎されてるってことだもんね。
エントランスに見えた人影に、ゆっくりとアクセルを踏む。
駐車場の入口のシャッターがゆっくりと上がる。
「はい」
「ありがと」
駐車許可証を受け取ってダッシュボードに乗せて、エントランスの中に戻っていく背中を視界の隅で確認しながらゆっくりとハンドルを切る。
通用口に一番近い来客用スペースに車を停めて、カバンを掴んで飛び降りた。
後ろで、ゆっくりとシャッターが降りていく音が聞こえる。
「どした?」
シャッターのリモコンをポケットにつっこんで、ふにゃんって笑って待っていてくれるおーちゃんに、俺は無言で飛びついた。