夏休みの終わりごろ、ふらりと現れた茶髪というか、金髪に近い髪色にピアスの男の子。
声をかけたら、一瞬びっくりした顔をしてから、恥ずかしそうに笑って返事をしてくれた。
近くで見た彼は、色白で大きな目に、ぽってりとした赤い唇で、女の子のお人形さんみたいで……でも、眉毛はきゅっと上がってて、男らしい。
見た目ちょっと怖そうなのに、僕が話しかける度に、ちょっとびっくりしたような顔をするのが面白くて、笑ってしまいそうになるのをなんとか笑顔で誤魔化した。
利用申込書に名前を記入する右手にはペンだこがあって、 丁寧に文字を記入していく。
きっと、ものすごく真面目な子なんだろうけど、外見で損してるだろうなぁって思いながら金髪の頭を眺めてた。
「保険証か学生証持ってますか?」
「え?あ……学生証……あ、そっか……今日は私服だから持ってねぇや」
パタパタといろんなポケットを叩いてみてから、ぼそっと呟いて、助けを求めるように僕を見るから、それがおかしくて可愛くて、思わずくふふって笑っちゃった。
「じゃあ、櫻井くん。今日は貸出は出来ないけど、利用はできるから、しっかり勉強していって?」
「明日もお兄さんいる?」
「僕?いるよ」
「じゃあ、この紙書いて、明日、学生証持ってきます」
櫻井くんは、申込用紙をクリアファイルに挟んでから、慎重にカバンにしまって、ぺこりとお辞儀をして学習スペースに歩いて行った。
カウンターから見える学習スペース。
金髪が目立つからか、どうしても視界の隅に櫻井くんが見える。
唇に指を当てて考えていたり、くるくるとペンを回していたり、でも、視線はずっとテキストの上。
受験生、なのかな。
夏休みの課題の追い込みでは無さそうだし、レポート作成という感じでもない。
次から次へとテキストやプリントを取り出しては、ノートに書き込んでいく。
閉館時間のアナウンスに、はっとした様子でバタバタと机の上を片付けて、申込書を丁寧にしまった人と同じ人と思えない程、かなり適当にプリントをカバンに突っ込む姿に思わず吹き出した。
あのプリント、カバンから出したら文字が見えないくらいしわくちゃなんじゃないのかな。
「……おもしろいなぁ」
『櫻井翔』くん。
さっき見た申込書の字をもう1度、名前を頭の中で再生した。
「また、明日ね」
そう声をかけた僕に、また一瞬びっくりした顔をした櫻井くんが、ワンテンポ遅れて眉毛を下げて笑う。
「明日、また来ます」
そう言って、綺麗にお辞儀をして出ていく背中に小さく手を振った。