結局、『二文字』が何のことなのか、分からないままっていうか、考えないようにして数日を過ごした。
今日は部長に同行して新規の営業先……迷わずに雅紀がくれたネクタイを手に取った。
ぎゅって、結び目を締めて、形を整えて……
ネクタイの先、雅紀がキスしたところをそっと触る。
……キス……
『要はさ、キスとかその先をしたいって思うかどうか、じゃん』
……その先って……
俺と……雅紀で?
泣きながら俺を見ていた雅紀を思い出して、胸がぎゅうって痛くなった。
初めてなら、なおさら。
大事にしなきゃいけないんだぞ、雅紀。
俺なんかじゃなくて、きっと、もっといいやつがいるから。
スマホのアラームが鳴って、慌てて止めに行く。
俺がしたいから、じゃなくて、頼まれたから。
頼まれたから、だぞ?
そう呟きながら雅紀の名前をタップ。
何回目かの呼び出し音で音が途切れる。
『ぉはよぉ』
「起きた?」
『んぅー。まだぁ……』
「起きろよ」
『んー……』
ごそごそ音が聞こえて、ごんって鈍い音といてって小さな声が聞こえる。
「大丈夫?」
『うん。足ぶつけた。しょーちゃん、おはよー。起こしてくれてありがとう』
くふふふふって笑うその声が、心地よくて。
「ちゃんと食ってんの?」
『あー、うん』
「何食いたい?」
『え?』
「俺は作れねぇけど、どっか連れてってやるよ」
『……ほんと?いつ?!』
「今週、いつでもいいぞ」
『え、じゃあ、今日!』
「今日?」
『だって、もうしょーちゃん不足だもん』
「なんだよ、それ。じゃあ、あそこのカフェで」
『うん!ありがと!しょーちゃんもお仕事頑張ってね!』
電話の向こうで、きっと向日葵みたいな笑顔を咲かせてるんだろうなって、俺も笑顔になる。
スマホをカバンに突っ込んで、玄関のドアを開けた。
「あっちぃな、今日も」
今年の夏は、なかなか終わりそうにねぇなって、空を見上げて呟いた。