捕まってろよって言ったのに……
いや、俺がもっとちゃんと見てればよかったんだ。
俺がちゃんと捕まえておけば。
テムズ川の花火大会は、毎年すげぇ人で。
1回来て辟易して、もう二度とこねぇ!って思ったけど、やっぱりロンドンに住んでるなら行っとくべきだろって、花火の量も半端じゃないから、雅紀に見せてやりたかったんだ。
何年か前、一時帰国の時に見た花火は綺麗だったけど、また離れ離れにならなきゃいけないって寂しい気持ちの方が強かったから……これからはいつでも、2人で見られるって、そんな気持ちも込めてチケットも張り切って買ったのに。
肝心の雅紀とはぐれるなんて、有り得ないだろ。
しっかりしろよ、俺!
「雅紀!」
声を上げても、人の流れに逆らって動くことは出来なくて……
スマホも取り出せないこの状況に、焦る。
「雅紀!」
何度呼んでも返事はなくて……
泣いてないか?
せっかくしょーちゃんが準備してくれたのにとか、泣いてないか?
お前のせいじゃない。俺がもっとちゃんと捕まえてたら良かったんだ。
変なやつに絡まれてないか?
「くそっ」
騎馬警官の姿が見える。
『うわー!お巡りさん、馬に乗ってるんだね!かっこいい!』って、笑っていた雅紀。
今日も『馬に乗ったお巡りさんいるんでしょ?』って、楽しみにしてたのに……
馬の上からなら、探せるかもって、聞きに行こうとしたけど、馬は向きを変えて遠ざかる。
「あー!もう!」
どうしたらいい?どうしたら?
「しょーちゃん!」
雅紀の声がどこかから聞こえた。
「雅紀!」
どこだ?どこにいる?
「しょーちゃん!」
「雅紀!」
見つけた。
白い馬に乗った雅紀が手を振ってる。
馬に気がついた人たちが、少しずつ左右に分かれて、俺はそこをすり抜けて馬に向かって走った。
雅紀が手を伸ばす。
俺も手を伸ばして抱き抱えて、地面に降りた雅紀をぎゅうって抱きしめた。
「ごめんね、しょーちゃん」
「俺こそ、ごめん」
「再会のキスはしないの?」
聞こえてきた声に2人でえぇ?!って驚いて、見上げる。
馬にまたがった警官が、にやっと笑って俺たちを見下ろして、周りにいた人たちも手拍子やら口笛やらで参加し始めて……
「しょーちゃぁん……」
どうしたらいいの?って、困った顔をしてる雅紀をえいって、抱き寄せて、唇を重ねた。
拍手と歓声が上がって、新年用に準備してきただろう紙吹雪を誰がが撒いて……
クラッカーもパンパンって、音を立てた。
「ありがとうございました」
警官にそう言って、雅紀が馬の首に『ありがとね』って抱きついて……
それから、俺たちに「幸せにね!」って言ってくれてる人達にも頭を下げて、今度はしっかり、手を繋いで歩く。
「もう絶対はぐれないように、しっかり捕まえとくからな?」
「うん。俺もしっかり捕まっとく」
「これから先も、ずっと、だぞ?」
「ずっと?」
「俺と、はぐれんなよ?」
「くふふ、うん。ずっと、一緒ね?」
そう言って笑う雅紀を引き寄せて、またちゅってキスをした。
