見えてきた、カフェの看板。
立ち止まって、近くのショーウィンドウに映る自分をチェックして、意識してゆっくり歩く。
テラス席には、いない。
ドアを開けた途端、目に入る明るい色の髪の毛。
どくんって音が耳の奥で聞こえて、せっかくひいた汗がじわりと滲んだ。
なんだ、なんだよ。
下を向いていた顔が、ゆっくりと上がる。
俺を見て、ふわりと微笑む。
だから、なんだ。
なんなんだよ。
ギギギって音がしそうなくらい、ぎこちなく左手を上げて、アイスコーヒーを注文する。
「お待たせ」
鉛筆を持ったまま、唇に手を当てて俺を眺めていた相葉くんがまたふんわりと微笑んだ。
「課題やってたんで、全然大丈夫です」
ごめんなさい、片付けますねって、スケッチブックを閉じようとした手を止めた。
「これ、相葉くんが?」
「あ、はい。秋に学祭があるんですけど、ファッションショーの課題がブライダルで」
「すごいね」
見てもいい?ってスケッチブックを手に取る。
「学祭、見に来てくれます?」
「え?俺?行っていいの?」
「松本さんと二宮さんも良かったら。さとちゃんの絵、すごいから見て欲しいです」
「あ、大野くん?」
『ダメ。まーちゃんの身体は見せらんねぇ』
ほわんとした雰囲気から想像もつかないほど、鋭い眼差しと声だったのを思い出した。
だから、なんなんだ。
さっきから、俺、おかしい。
変な汗かいたり、暑くなったり…今度は腹の奥の方がぞわっとした。
「大野くんは、絵なの?」
「さとちゃんは美術コースなんです。」
「へぇ、同じ学校なんだ?」
「はい。で、今日はどこに連れていってもらえるんですか?」
少女漫画ばりにきらんきらんの瞳で見上げられて、一瞬、固まる。
相葉くんはそんな俺ににっこりと笑って、荷物を片付け始めた。
「あ、えと、このちょっと奥の方に穴場の店があんだよ。もう行く?」
「うん。お腹空いちゃった」
えへへって、笑う相葉くんに俺もつられて笑顔になった。