沈黙を破ったのは、松本さんの声だった。
おーのさんの、襟元を掴んで…揺さぶる。
止めなきゃって、思うのに
身体が動かない。
おーのさんは、感情の見えない顔で、松本さんをまっすぐ見つめてる。
目の前で見てるのに
全てがスローモーションみたいに見えて
聞こえてるのに、音が聞こえなくて…
松本さんが、おーのさんの白衣に顔を埋めた。
…泣いて、る…
痛い
悲しい
苦しい
感じる、痛み。
「最初から決まっていた。マサキ自身に危険が及んだ場合、マサキが人間を危険な目に合わせた場合は廃棄だと。そして相葉くんを含め、外部の人間がマサキの存在を『クローン』と知った場合も、廃棄処分だと」
おーのさんの声だけが耳に届く。
『その時が来るまで、
マサキにはたくさん笑ってもらいたいんだ』
そう言って、笑ってたのはいつだったっけ...
松本さんが、何か叫びながら、おーのさんを揺さぶってる。
「だからだよ」
おーのさんの声に、松本さんの動きが止まった。
「『クローン』にも、心がある。ならば、その心の赴くままに、マサキが望むことは、望むままに。おれはマサキにそうさせてやりたかった」
「あらゆる可能性を考え対策をたてたつもりだ。所長の言う通り『クローン』は国家機密。『依頼者』以外の外部の人間に知られてはならない。今なら、マサキも落ち着いているし、マサキを『クローン』だと知る外部の人間は二人。だから、今のうちに」
今のうちに…?
今のうちに、なに…?
おーのさんが俺を見て、一瞬だけ、小さく、笑う。
...そうだ...
おーのさんは、おーのさんを信じろって、言ってた。
...そうだよ...
俺は、アンタを信じるって決めたんだ。
自分の望む未来を信じるって、決めたんだ。
マサキは、廃棄処分にはさせない。
「……………方法が、無いわけじゃない。今なら」
おーのさんが、言う。
「本当の緊急ミーティングを始める。…………席に着いて」
凛と響く声に、背筋を伸ばした。