ニノの纏う空気が、変わった。
諦め?諦めとは違う…
なんだろう?
胸の奥がざわり、と音を立てる。
「おーのさん、ひとつ、聞いてもいいですか?」
「どうしたの?ニノ」
インカムを外して、わざわざおれの近くに来なきゃ
聞けないような、ことか?
「オリジナルとクローン、
その違いはなんですか?」
「違い?」
「えぇ、違い、です。」
「決定的に違うところは、
クローンには生殖能力がないってことかな」
「それは、わざと?種の保存のためですか?」
「クローンはあくまでもクローンだからな」
「クローンに子供を産ませるのは、
神への冒涜だから、ですか?」
「…冒涜…っていうか…保険、かな。」
自嘲気味に笑う。
クローンを作る上で、そこだけは、譲れなかった。
クローンは生きているべきではないもの、だから。
あくまでも、オリジナルの模造品なのだから…
「生殖能力のない、ニセモノの生命だから、
切り刻んで捨ててもいい、と思えるための
保険、ですか?」
薄茶の瞳が、おれを突き刺す。
何が言いたい?
お前だって、今までそうして、自分の仕事を
正当化してきただろう?
「ま、確かにオリジナルがいなくなって、
クローンだらけの世界なんて、
ゾッとしますけどね」
ニノは口の片側だけ上げて笑った。
「それにしても、今回の『アレ』は、
相当悪趣味な実験ですよね?
なんのためにあんなことする必要が
あるんですか?」
「 … 」
確かに無意味な実験だ。
クローンがクローンであることに代わりはない。
感情を持っていようとなかろうと、
生きることは許されないのだから。
でも…ニノ…
「ニノ、お前は何を恐れてる?」
おれが言った言葉に、ニノは一瞬
驚いたような顔をして、答えた。
「恐れてなんていません。
ただ、許せないだけです 」
「なにを?」
「神様を、です」
そう言って不敵に笑う。
…違和感
冷たく笑うその瞳の奥が
泣きそうな色に見えるのは
おれだけ、かな?
「櫻井さん、壊れないといいですね?」
思いがけないニノの言葉に、
胸の奥がぶるり、と震える。
翔くんが『彼』に救いを求めているなら、
それで救われるなら…
そう思っていたけれど…
それは、間違い、だった?
ゆらり
ゆらり
こぽり…
もうすぐ『彼』が目を覚ます