一番怖いのは幽霊でも、怪獣でもない。
…殺人鬼でもない。
普通に見える人間が一番怖い。
普通に見えて、何をしているのか分からない。
おれたちも、そう。
だけど…
ここへ来たからには、もう、逃げられない。
腹をくくって、やるしかねぇんだ。
翔くんの苦しみも、分かるけど。
考えたってどうにもならねーんなら、
考える必要はない。
何年経った?
まるで、囚人のような生活にも、もう慣れた。
助手として入ってきた潤は、研究者として
純粋に成果を求めていて、
疑問は感じていないようだけれど。
問題は、ニノだ。
『二宮くんは、外に住んでんだって?』
『はい』
『外に住むの、面倒だろ?』
『そうですね。色々とめんどくさい書類とか
書かされましたけど』
薄茶の瞳で俺を見つめる。
『音声登録するから、自分のID決めて、録音して』
『IDですか?』
『説明受けたでしょ?
自分のチーム以外は名前も顔も知らないし、
知られちゃいけないんだよ。
俺たちは中に住んでるから、ココまで直通で
来れるけど、二宮くんは外からだろ?
毎日、セキュリティチェックが必要なんだよ』
『あぁ、そうでしたね…』
『インカムは常に着けて。
ま、うちのチームは切ってもいいことに
なってるけど。
切ってる時はケータイ必ずonで、ちゃんと
連絡つくようにしておいて』
『わかりました』
『ID決めた?』
ニノは無言で頷いて、おれはセキュリティの
ソフトを立ち上げてニノにPCを渡した。
『Obelisk』
ニノはenterキーを押して、PCをおれに戻す。
『オベリスク?オベリスクって、
あの、広場とかに立ってるデカイ柱だろ?』
『あれは、太陽信仰のシンボルを模したものとか
ピラミッドの代わりに、王の権力を象徴する
ものだっていわれているんですよ。』
『ふぅん。ニノはそういう歴史とか好きなの?』
『いえ、なんとなく、思いついたんで…』
そう言ったニノは、何故か悲しそうで
おれはその瞳から目が離せなかった。
今日のニノは、様子がおかしい。
いや、少し前からか。
翔くんも、また揺れている。
ゆらり、ゆらり、こぽり。
液体の中でゆらぐ、ニセモノの生命のキミ。
キミはどんな夢を見ている?