学生寮にて 10 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

櫻葉で相櫻な虹のブログ

櫻葉で相櫻なブログです。



自分の恋愛の対象が男な訳では無いと思う、多分。たまたま好きになった人が男だったと言えば聞こえが良いけれど、自分の人生で恋愛という意味で好きになった人は一人しかいない。だからハッキリと言い切ることは難しい。



だけど彼以外の他の人のことを気になったことは一度たりとも無い。周りが見えていないだけなのかなと思ったこともあったけど、改めて周りを見ても彼以上に魅力を感じる人を俺には見つけることが今現在まで出来ていない。







「男だろうが女だろうが、基本的にモテないよ、俺」




逃げに走った返事だったかもしれない。だけど実際にモテると実感した事は一度も無い。中学の頃に自分の事を好きなやつがいると噂で聞いたことは何度かあったけど、別に告白等をされたわけではなかったからただの噂に過ぎなかったんだと思っている。





「嘘でしょ?」



「嘘じゃないよ?なんで?」



「いや、オレの周りでも櫻井くんのこと好きなやつってめちゃくちゃいたから」




相葉君はそう言ってくれるけどそんなわけないと思う。少なくとも自分の周りにはいなかった。聞いた噂だって誰のことなのかも分からなかったし言い方は悪いかもしれないけど何かしらのアピールをされた記憶も無い。





「まさか」



「いや、ほんとに。女の子が圧倒的に多かったけど男も多分いたと思うんだよね。大っぴらに好きだとか言ったりとかは無かったけど見てたら分かるよ」





どうやら態度とか話し方とか視線とか、そういうので分かるらしい。それならば俺が相葉君にする態度や話し方や視線も実はバレバレで俺の想いなんてやつはお見通しだったりするんだろうか。





「相葉君は?相葉君の方こそモテるでしょ」




このルックスと性格の良さだ。好きにならない方がどうかしていると思う。どう考えても完璧だと思っていた彼と数日同じ部屋で過ごしても少しも負の部分が見つけられない。




「オレ?どうだろ、普通?」



「普通?」



「バスケ部って何かモテる奴多くて。だからそれに便乗して試合とかで名指しでキャーキャー言ってくれる子はいたけど、って感じ」




羨ましい。本当は俺だってその姿を見たかった。相葉君が所属していたバスケ部の試合がある事のリサーチは常に出来ていたけれど、休みの日の学校の体育館にバスケに全く縁のない俺が一人で訪れる勇気は無かった。




「その女たち、全員本気だったと思うけど」




本気にしろ何にしろ、そんな風に相葉君の出る試合を見ていた女達に今更嫉妬してしまう。だって絶対めちゃくちゃかっこよかったに決まってるから。自分にはできなかったからこそ余計に羨ましいんだろうけど。




「そうかなぁ。わかんないけど」



「告白とか、無かったの?」




分かってます。ありました。その辺もごめん、全部では無いけれどリサーチ済。小学生の時から想っていたんだ。気持ち悪いがられるかもしれないけど、噂が立てばその女を確かめに行った事だってある。




「あったけど」




知ってる。それも可愛いと言われる子ばかり。偏見丸出しで申し訳ないけれど、自分の事が可愛いとわかっていて告白するんだと思った。彼ほどの人に告白する事は、やっぱりかなりの勇気も度胸も図々しさも必要だと思うから。





「全部断ってたからなぁ」



「え?」



「え?」



「彼女、いたよね?噂でチラッと聞いたことがあった気がするんだけど」




目立つ彼の噂はすぐに立った。放課後体育館裏に呼び出されたらしい、とか、何組の女と付き合い始めたらしい、とか。その全部を知ることは俺にとっては厳しくて、いらない情報だと判断すればそこは見えないことにしていた。





「あー、噂は結構あったよね」



「知ってるんだ?」



「んー、ある程度ね。誰が流すのか知らないけどさ、告白された回数よりも噂の方が多分多かったと思うんだね。変だよね」




過去の事だから別にいいんだけどと相葉君は言うけれど、それを今聞いた俺は全然良くなくて。その度に切なさを感じていた俺としては、どの噂のことについても今全部真相を確かめたいくらい。





「断ったって言ったけど、なんで?」



「なんでって言われてもなぁ……」



「噂になってたのって、可愛いどころばかりだったじゃん」




知ってる範囲の女達のビジュアルはみんなだいたい同じに見えた。流行りってやつに乗らないと不安なんだろう。それのどの辺が魅力なのか俺には分からなかったけど。





「可愛い……かな。櫻井くん、あーゆー系が好きなの?」



「は?」



「いや、だから、流行りに乗って男の前で媚び売るみたいな女子が好きなの?」



「は?」



「オレに告白してきた女子なんてそんな子ばっかりだったよ。バスケ部の誰かと付き合うことがある意味でステータスだと思ってたんだよ。オレがダメなら次の奴、って子多かったから」




モテるはモテるで色々考える事があるらしい。自分がダメだったから次に行く女達を何人も見て、愛だの恋だのを信じることが出来ていないのかもしれないと思った。





「櫻井くんもそんな女子がいいの?」 




部屋の空気が変わったように感じた。それが何故なのかは分からない。だけど少しだけ、なんて言うかヒリついた様な。





「さっき言った可愛いどころってやつは一般論としてだよ。俺はそもそもでそーゆー女達に興味はないから。相葉君はさっき俺の事を好きなやつがいた、みたいに言ってたけど、告白された事もないし今日まで恋人がいた事もないよ」





これが過去の俺の全て。付け足すとするならば、俺がずっと好きな人はめちゃくちゃに良い男で、今隣に座ってる、という事。




「そっか……。良かった」




「良くはないと思うけど。一生誰とも付き合わない人生なんじゃないかってマジで思う時あるからね」




だって好きな人は相葉君なんだから。




「ってそうだ、さっきの続き聞いていい?相葉君は男は?どう……思う?」




これでハッキリと否定されたら俺の想いってやつは終わる。いや、元々一方通行なものだから始まりも終わりも無いんだけど。それでもやっぱり彼からの否定を目の当たりにすれば心の傷ってやつは間違いなく付くのにと思いつつ。





「別に有りでしょ」



「……え?」



「むしろなんでダメ?って思う方かも、オレ。好きになる事に性別ってそこまで重要なのかな。女の子だから好きになる。女の子とだから恋愛する、って考えはオレには無いかもしれない」




だからって女の子が無しとかじゃないけどね、と言う相葉君の考え方が自分と同じで嬉しくなる。




「俺も、俺も同じ。女だから良くて男だから悪いとか無くて……」




相葉君の事を好きだと気付いたあの頃の自分も、男が男を好きになる事がおかしな事だとは少しも思わなかった。性の授業が何故男女のそれだけ何だろうと思ったように。




「マジか……すげぇ、なんか嬉しいかも、オレ」




小さくそう言った相葉君が肩と肩が触れたまま、俺の手を握った。