「大丈夫??」
自分のために息が上がっている相葉君に何かしらの感情がまた湧きそうになってしまう。
「大丈夫だって」
だから余計に平静さを装ってみるけれど。
「先生見て!!ほら!ね!辛そうでしょ?顔も赤いし!荷物の整理しよーってなって、そのくらいの時にね、なんかすげー顔赤くて!」
先生らしきその人物に俺の事を説明してくれる相葉君は必死で、彼の性格の良さがこんな時にこんな近くで見ることができるなんてと感動すら覚える。
「どれ?」
相葉君の力説にそう言ったその男がなぜか体温計ではなく、さっきの相葉君と同じように俺の額に手を当てた。
「大丈夫じゃねー?熱ないっぽいけど」
「え?嘘だ!めちゃくちゃ熱いでしょ?」
「いや、マジだって。触ってみ?」
そう言ってまた相葉君が俺の額に触れるから本当なら半端なくまた熱が上がってもおかしくない。
「……あれ?さっきより全然熱くない……かも」
「だろ?」
「でもさっきはマジでめちゃくちゃ熱かったんだって!」
だけどギリセーフ。額の熱さが引いたのは、単純に第三者が現れて俺の妄想と動揺から来る興奮がかなり収まったから。
「相葉君ごめんね。もう大丈夫だから。さっきは俺もなんかすごい暑くてさ、熱かなと思ったんだけど。初めての寮の部屋で緊張しちゃったからかもしれないや」
とりあえずこの場を切り抜けるためにそれらしい事を言ってみれば、先生らしきその人も納得の表情をする。
「ほんとに大丈夫?」
「うん、もう平気。……心配かけてごめん」
この状況で申し訳ないけど、やばいくらい感動。相葉君が俺の事で必死になって、そしてめちゃくちゃ心配してくれてるなんて感動でしかない。
「とりあえず戻るわ。また何かあったら呼んで?」
この人の存在を忘れるところだった。相葉君が自分の事に親身になってくれる事しか頭になく、正直に言えばこの男の事は眼中に無かった。
「あ、はい。……すみませんでした」
「あとさ、おれ、先生じゃなくてここの寮長なんでよろしく」
「寮長?」
「そ。まー、なんつーの?管理人兼お世話係みたいな感じって言えばわかりやすいかな」
確かに改めて見てみると若い男だ。俺たちとそんなに変わらないようにも見える。それになんとも言えないヨレたTシャツにヨレたスウェットは先生らしくない。それに裸足だし。
「寮長さん……初日からすみませんでした、ほんとに」
「ニノでいいよ。みんなそう呼んでるから」
「……にの?」
「愛称みたいなもん。寮長なんて呼び名堅苦しいからさ」
とりあえずまたなんかあったら呼んで、と言って裸足に入口にある小さな玄関スペースで脱いだサンダルを履いて部屋から出ていった。
「なんかごめんね」
寮長だという男が部屋から出てまたふたりのこの状況は、正直また熱が上がりそうで。
「オレは全然だよ!って櫻井くんほんとに大丈夫?なんかまた顔赤いよ?」
理由を言ってしまえたら楽なんだけど、と思いながらも、また相葉君とふたりきりになったからです、と心の中で言い訳をする。余程の事がなければこれから3年間同じ部屋だと言う説明は事前に受けたけど、まさかその相手が相葉君だったなんて奇跡。
「ん、大丈夫。ごめんね、ほんとに。ちょっと諸々と浮かれちゃってて、だから落ち着けば、うん。大丈夫、なはずだから」
焦る言葉は早口で、こんな自分が今は少し嫌だと思う。せっかく相葉君と話すことが出来ているのに、熱のような症状で彼を走らせてしまったこともそう。
「辛かったらすぐ言ってね?オレね、長男だから役に立つよ!」
「……長男……なんだ」
「うん!オレ長男!!下に弟がいるんだよね。だからオレ結構しっかりしてる……かな。うーん、……えっと……多分してるから頼ってね!」
またひとつ彼を知る事が出来た喜びも、俺以上に早口で話す内容も。
「ははっ!!何それ!」
自分がこの人の事をいつの間にか好きになっていた理由が分かった気がした。
「……あ……」
「え……?あ、ごめん、笑いすぎた」
「違う違う!」
自分への納得だったり彼の初めて見るとこができた色々な一面だったりに思わず笑ってしまったことは失礼だったかもしれない。嫌われたくないのに零れた笑いは不愉快だっただろうか。
「あのさ、言われない?櫻井くんって笑うとめちゃくちゃ可愛いね!!!」
そう思ったけどそんな心配は無駄に終わった。
「……は?」
「櫻井くんってこんなに可愛く笑うんだね。勉強出来てカッコ良くて、って印象だったんだけど、可愛さもプラス……っと」
そう言った相葉君が、真顔で俺の顔をマジマジと見てくるから
「……照れるわ」
つい出てしまった本音に
「やっぱり可愛い!!!」
謎に盛り上がる相葉君に対して、照れると言ってしまった事の言い訳を色々としなくてはいけなくなってしまった。