誰も知らないからいい。
体に触れるでかい手も、耳元で囁かれる甘すぎる声も。
俺以外の誰も知らないそれを、今日も俺だけに。
「相葉さん、この後って暇だったりします?」
「あー、ごめん!今日ちょっと予定あるんだよね」
「まじっすか。ならまた今度で」
「うん。ごめんね」
聞こえてくるこんな会話に安心する。俺との事を優先にしてくれた気がして。今日という日の約束なんて何もしていないのに。
「櫻井さん、明日の件なんですけど……」
「ん?何?」
「すみません。明日の朝、結構早い集合になりそうなんです……」
「あー、言ってたよね。了解。大丈夫」
マネージャーに前に言われていた時間は相当早い。今のこの段階で考えることでは無いことは分かっていて、だけど考えてしまう。これは一睡も出来ないな、と。
「しょーちゃん、ちょっと……いい?」
このタイミングで相葉くんから声を掛けられる事は想定内。
「ん?どうした?」
それなのに、どうした?なんてわざとらしい返事をする。仕事の話ならこの場ですれば良い。だけど出来ない会話は場所の移動を余儀なくされ、それが俺にはなんとも言えない快感になる。
「どうしよっか、今日」
場所を変え、それでも周りに聞こえないように小声でする会話も良い。この緊張感が高揚感に繋がる事はもう経験済み。電話での連絡で会う時よりも興奮するのは、二人だけの秘密を抱えている気持ちになるからなんだろう。
「用事あるんじゃねぇの?」
本当は嬉しいくせに。さっきの相葉くんとスタッフとの会話を思い出して一応聞く自分にいやらしいなと思う。でも相葉くんが断っていた事も承知で、もしかしたら自分の思いよがりなだけで俺以外の別の用事が本当にあるのかもしれないし、なんて。
「分かってるのに、そんな事言うんだ?」
「いや、だって」
「見てたでしょ?しょーちゃんと会いたいから断ったの分かってるくせに」
目を細め片方だけ口角を上げるこの顔がめちゃくちゃに好きなんだ。普段は滅多にしないこの表情は最高にエロい。ベッドの上では頻繁に見る表情だから得にそう思うのかもしれないけど。
「一時間後でいい?」
「いいよ」
「じゃ、後で」
これだけの会話。誰もいなくても触れることは一切しない。収録の時やメンバーといる時の方が触れるのはお互いに同じ。度が過ぎ無いように意識をしながらも、俺たちの関係がもしかしたらバレるんじゃないかと思いながらの行動はどれもがスリルがあって痺れた。
「ん、後でね」
こんな相葉くんを誰も知らないと思う。言葉は少なく大きくは笑わない。だけど決して冷たい訳ではなく、俺を見る目は熱い。
「相葉くん」
「……何?」
「好きだよ」
二人きりの部屋から出ようとする相葉くんの肩を入口のギリギリで掴み瞬間的に耳元に口を寄せてそう言えば、片手で目元以外を覆う仕草は可愛くて耳まで真っ赤。
「……だからそーゆーとこ。しょーちゃんって、そーゆーとこあるよね……」
照れくさい事を不意打ちにサラッとやる、って事を言いたいんだと思う。だけどそれは相葉くんのこんな表情が見たいからわざとにやっているんだと分かってもいいと思うんだけど。他の誰にだってしたことは無いんだよ、俺。
「相葉くんは?言ってくれないの?」
これもわざとに聞く。警戒心が強いと言うかなんというか。ベッドの中ではしつこいくらいに言うくせに、普段は滅多に言わない。場所を選んでいるだけかもしれないけれど、第三者の気配があるところで匂わせる事すらしないのは自分のキャラを守るため、というのなら全然あり。天然で明るく爽やかな、俺と二人でいる時とは違う彼もどうしたって好きだから。
「……後で言うから、今は勘弁してよ」
まだ赤い顔をした相葉くんが、絶対してこないと思ったのに近い顔のままキスをしてきたから
「続きは一時間後にね、しょーちゃん」
今度は俺が赤くなる番だった。