ある意味で一途ってやつ 1 | 櫻葉で相櫻な虹のブログ

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愛だとか恋だとか、そんな事は面倒だった。




たった一人、その人の事だけを想い付き合う。そんな事は俺にはできない。




そう思ったのはいつだったかな。初めての恋愛は違ったはずなのに。いつの頃からか、相手に本気になれなくなっていた。




だからもちろん上手くいかない。上手くいくのは体の関係だけ。いや、それだって怪しい。言い寄られてそのままする行為は欲を吐き出すだけの物だから。それが相手にとって不快でなければ成り立っていたつもりでいる。




だけどそれだけ。




当たり前のように恋人以外とも平気でやった。欲を吐き出せればいいわけだから特定の相手である必要はなかった。その時々で自分が恋人なんだと言う女達がその事への文句でうるさかったけど、そんな事すらもただ煩わしいだけだった。





そしてそれは今も続いている。





いい歳をして特定の相手を持てない。言い寄ってくる女は今もいる。だからその時だけ体を繋げる。特別な感情は全くなく。





面倒なのは、その時だけの相手として寝た女が本気なることだけ。





だけどそんなのはどうでもいい。こちらにその気がない事が分かれば自然と離れていく。しつこい女もたまにいるけど、それはそれで好きにすれば良い。どんなことをされたって俺は本気にならない。





ただ、それだけの話。











「久しぶりだね、覚えてる?」




意味不明な問いかけはやめて欲しい。覚えてるも何も、忘れるほど久しぶりでもない。それに例えば相当に久しぶりだとしても、唯一俺が本気になった相手の事を忘れるわけない事を分かっているくせに。





「意地悪いな。忘れられる程度の奴からの誘いなら来ねぇよ」




そんなに暇じゃねぇわ、と少し毒づいてみる。綺麗だとしか形容できないその人は初めての恋愛の時のまま。そりゃ年はお互い取ってるけど、壊れないイメージはいつの時も俺を喜ばせた。





「ふふ。相変わらず口悪いね」




「うっせーな。んな簡単に治んねぇよ」




「まぁ、そうだよね」




「で、何?珍しいじゃん、連絡くれんの」





最低限の連絡は取っていた。年末年始の挨拶とか同窓会の出席の確認とか。あの頃からどうにか切れないようにとしてきたのは多分俺の方。





「別に?ただ、どうしてるかなと思って」




こんな事はそれこそ珍しい。学生の頃から長く続いた関係が終わりを迎えてから初めてかもしれない。それ以降、会う時には必ず理由があった。




「なんだよ、それ。どうした、マジで」




女とでも別れたかな。聞く話によると女が途切れる事はほとんどないとか。って人からの又聞きの情報だから確かではないけれど。




「別に。ほんとにただ会いたくなっちゃっただけ。ダメだった?」





少し長めの髪を耳にかけながら俺の前に座ってからメニューを持ってきた店員に手を翳してそれを見ずに「アイスコーヒー」とだけ言った。









「女と別れたんだろ。色々噂あるぞ、お前」





そう口に出してから自分が傷付いていることを知る。とうの昔に別れた元恋人ってやつの恋愛の話にそんな感情になってどうする。





「色々……ね。別に何もないのに」




「嘘つけ。女途切れないって話じゃん」




「どこの情報さ。そんなの勝手に女の子が言ってるだけだよ。セック スしたら恋人って、なんでそう思うんだろ」




それは分かる。体を繋げたからその気になられてもこっちにはそんな意思はない。それなら抱くなと言われたらそこまでだけど、そもそもでその辺の事も合意だったから抱いたのに。





「確かに」




「翔ちゃんも思うの?」




「まぁ」




「そうなんだ……。って、ごめん。久々に会ったのにこんな会話」





いや、そもそもで話を振ったのは俺の方。イレギュラーな再会に探りを入れたかっただけ。この人の恋人有無を確かめたかっただけ。ストレートに聞く勇気が無いから。





「俺こそごめん」




「ふふ。変わらないよね、翔ちゃんって」





どこが?





綺麗に笑う彼を見てそう言いかけた瞬間に、頼んでいたアイスコーヒーを店員が彼の前に置いた。