「脱ぐ仕事とかどう思う?」
事務所について撮影の準備の間にマネージャーに言われた言葉にすぐには返事ができなかった。
「あ、脱ぐって言っても変なやつじゃなくて。女性誌の特集で話来ててさ。オトコノカラダってやつなんだけど、聞いたことない?」
前に松潤もやったんだと聞かされて考えてみればしょーちゃんと何かの話の中でそんな話題が出た気がした。
「いや、でもオレは」
100%無理。いや今すぐの話ではないにせよ、今朝付いたばかりの痕が体中にあるオレとしてはそんな体を人前に晒すことは到底出来ない。
「まぁまぁ、話だけでもさ」
こんな風に言われても頷けない理由はしょーちゃんが付けまくった痕だけの事では無い。それ以外の理由の方がオレには大切だったりする。
「すみません。良い話なのに。オレには無理です。失望させますよ」
今朝、オレに抱かれながら、オレの仕事にヤキモチを妬くしょーちゃんの事を思うと受けられる仕事では無い。ダメだとは絶対に言わないとわかるから余計に。
「どうしても無理?いい話なんだけどなぁ」
ファンも爆発的に増えるよ、と言われてもそれが今のオレにとって最優先ではない。最優先はいつもしょーちゃん。それはどんなことがあっても絶対。
「すみません」
「そっかぁ。まぁ、まだ先だし考えてみてよ」
さ、仕事仕事!と言いながらオレの肩を叩くマネージャーには申し訳ないけれど、オレが仕事で脱ぐ日は多分来ない。
「どう?」
極たまにこんな風に潤さんと事務所内で会う。最初の内は気まずさでいっぱいだったけれど今はそんなことも無い。事務所の先輩だからと呼び方も変えた。
「正直まだ、よく分かりません。だけど頑張りたいなと……」
しょーちゃんと一緒にいる時間は減った。だけどそれはどんな仕事についても大きな差はないだろう。向き不向きは別の話として、それなら早いうちから稼いでしょーちゃんの事を守れる男になりたい。それと同時に、初めて会った時に感じた松潤のオーラ、ってやつを自分にも。そう思うようになっていた。
「お前ならなれるよ。俺みたいな一流に」
あの翔くんがいい男だって言うんだから間違いないよ、と自信満々に言う。自分の事を一流だと言える自信も相変わらず羨ましい。
「スカウトの理由って、まさかそれ?」
「タメ口かよ。ま、お前ならいいけど。つーかそうだよ?翔くんが言うなら間違いないもん。それにお前を近くに置けば翔くんの事がリアルタイムで知れるしな」
って、なんて言うかさすが。しょーちゃんへの想いはどうやら少しも変わらないらしい。その形は変わったようにも思えるけれど。
「なんかすげぇ納得しました。なんで経験も取り柄も何も無いオレになんだろうって不思議だったから」
「結果、見る目あっただろ?俺」
「いや、しょーちゃんでしょ、見る目あるのは」
「はは!確かに!」
今気が付いた。この人、笑い方がしょーちゃんに似てる。ふと見せる仕草も癖もそうだ。体格も顔も違うのに、凄くよく似てる。
「潤さん、オレ……すみませんでした。しょーちゃんの事」
「何それ。謝ることじゃねぇだろ。翔くんが俺よりもお前を選んだだけの話なんだから」
「でも」
「でも、じゃねぇだろ?ならくれるの?違うだろ?若いのにお前頑張ってるよ。それって翔くんの為、なんだろ?」
言われて泣きそうになる。そう、それだけなんだ。しょーちゃんを守りたくてギリギリまで無理をしていた。それなのにオレは、しょーちゃんに寂しい思いをさせている事に気づくことすら出来なかった。
「頑張れよ、若者」
「……そんな変わんないでしょ」
「ばーか。キャリアが違うんだよ、キャリアが」
分かってる。まだ何も敵わないって。だけど目標が出来た。しょーちゃんを守りたいという漠然としたものだけだったオレが今は。
「追いつきますよ、オレ」
「良いねぇ、その目」
「バカにしてます?」
「まさか。マジで追いついてこいよ。翔くんの為にな」
この人に追いつけたと思える日か来るのかは今は分からない。だけど、追いつけたと思えた時に初めてオレはしょーちゃんの事を自分の物なんだと心から思えるのかもしれない。
「分かってます。追いつきますから、絶対」
その時が来たらきっと変わる。そうなったらしょーちゃんに寂しい想いなんて絶対にさせずにいられる。
そう思ったのに。
「はは!馬鹿だな。俺今も寂しくないよ?お前が一生懸命学校行って一生懸命仕事してさ。すげぇなってマジで思ってる。社会人の俺より忙しいんだもん。そうだな、エッチの数が減ったことに関しては正直寂しいけど、まぁ、そんなもんだろ」
潤さんとの会話を帰って話せばしょーちゃんが笑う。何かに吹っ切れたような表情は今朝思い切り抱きしめたからだと嬉しいんだけど。
「また抱いていい?今」
「無理することないよ。お前疲れてる」
「でも抱きたいって思うのはほんとだよ?」
「ばかだな、分かってるってそんなこと。でも無理はやだな。だけどさ、やっぱりどうしても寂しくなったら言うからさ、その時はさ、今朝みたいに抱いてよ」
もう、お隣の雅紀君、じゃないんだから、としょーちゃんが優しい顔で笑う。
「オレも言う!抱きたい時も寂しい時も、えっと、疲れた時も……言っていい?」
「当たり前じゃん。お前弱音言わなさすぎ」
「それはしょーちゃんもでしょ」
「俺は……別に?」
「うわ、ズル!」
「はは!うるせぇよ」
笑うしょーちゃんの顔が、再会したあの日に見たしょーちゃんとリンクする。髪の色も服装も変わったけれど、その表情はあの日のまま。
「ねぇ、しょーちゃん」
「んー?」
「なんかめちゃくちゃに疲れちゃったんだよね、今日」
「マジか。よし、寝ろ!食って寝る!それが一番じゃん」
まずは飯!と言ってソファーから立ち上がるから、その手首を掴む。
「一個忘れてる」
「え?あ、風呂?」
飯、風呂、寝る、って脳が男なんだよ、ほんとにこの人は。で、そんな少し天然なしょーちゃんがオレは大好きなんだよね。
「ぶー!ハズレ!エッチする、に決まってるでしょ!」
そう言って自分もソファーから立ち上がりしょーちゃんの体を抱き上げる。
「決まってんだ?」
「そうだよ」
「はは!マジでお前、最高すぎるだろ」
当たり前のようにオレに抱き上げられるしょーちゃんの、抱きついてくれる腕も耳にかかる息も、その全部がオレの体をめちゃくちゃに熱く反応させた。
お隣の櫻井さん
終わり