「1週間待って。1週間考えさせてほしい」
突然の告白に驚いて承諾するも断るも出来なかった。
「いいんですか?」
「え?」
「考えてくれるんですか?」
どうやら告白してきた相手は断られることを前提としていたらしい。
「ん。だって俺、あなたのことよく知らないし。だから……」
全く知らない訳では無い。同じ職場にいる一同僚として認識くらいはしている。けど、その程度。近い間柄で無い事は確か。
「やった!」
彼が喜んでいるのは断られなかったから。そうだと分かっていてもその子供みたいな喜び方に思わず頬が緩んだ。
「櫻井さん!」
告白の翌日、相手からすればこれはデートと言うものになるんだろうか。
「どうも」
「良かった、来てくれたんですね」
「だって約束したよね?」
「うん。だけど、来てくれない事も想定してたから」
とにかく嬉しいです、と言って笑う。その笑顔は嫌いじゃない。
「まさか。それより時間は?そろそろかなと思うんだけど」
誘われたのは流行りの映画。ちょうど見たいと思っていた作品だったから誘いに乗ったというのも正直ある。じゃなきゃ告白された男相手に翌日に共に行動なんてしなかったと思う。
「うん、そろそろだね。行きましょうか」
「ん」
「映画」
「え?」
「面白そうですね」
なんだろう、この感覚。男同士で映画に行くこと自体が学生の頃以来だからなのかもしれないけれど。
「あぁ、そうだね」
その時もこんな感じだったかな。もっとなんか違った気がする。って、そりゃそうか。だってこの男は俺のことが好きなんだから。
「この俳優さん、櫻井さんに似てると思いませんか?言われたことない?だから見たかったんです、オレとしては」
ほんとに時間ギリギリだ!行きましょうか、と明るい声を出す。さっき感じた緊張感にも似た空気は今はない。
「こんなイケメンと?無い無い」
「そうかなぁ、似てるけどなぁ」
「はは。映画ちゃんと見てみな?全然違うって分かるから」
いつもとは違うスーツではない彼の少し後ろを歩く。真隣を歩くことが何故か出来ない。
「ちゃんと見ても同じだと思うけど」
少し前を歩く彼の手が少し揺れる。もしかしたら俺の手を握りたがっているのではないだろうか。もし言われたらどうする?繋ぐ?繋がない?
「……さん?」
「櫻井さん?」
「大丈夫ですか?体調悪くなっちゃった?」
どうやら何度か名前を呼ばれたらしい。どうしてか彼の手が気になってしまってそこばかりを見ていて呼ばれたことに気が付かなかった。
「大丈夫。ごめん、考え事してた」
慌ててした言い訳は在り来りすぎて少し恥ずかしい。だけど彼はそんな事は気にしていない様子で
「はい、チケット」
自分が誘ったから奢りでーす!とチケットを俺の手に握らせてから見せた笑顔は、やっぱり嫌いじゃなかった。