「今年の誕生日プレゼントは何くれんの?」
サプライズ好きなくせに自分にはさせないとか、なかなかな癖があるこの男と一緒にいようと決めたのは最近。
「さぁ、なんでしょう」
そもそもで貰うことを確信して聞いてくるなんて、そんな奴は少ないと思う。特に大人では。
「わかんねぇから聞いてんだけどなぁ」
多分だけど、他の奴にならもう少し強い言い方をすると思う。例えば「わかんねぇから聞いてんだろ?」とか「知らねぇよ」とか。だけどそれは聞いている側を不愉快にさせない。それがこの男の生まれ持った物なのかもしれないと時々思う。
「これだけは言っておくけど、俺、じゃねぇからな」
違ったらそこそこ恥ずかしいけれど、こいつの口からそんなような言葉が出るのは簡単に想定が出来る。付き合うと決めた後早々に、こんなに長く待ったんだからと一瞬で俺を抱いたのが良い証拠。
「嘘だろ?マジで俺的に翔さん貰えたら他は何もいらないレベルなんだけど?」
真顔でこんな事を言える奴もまた珍しいと思う。濃い目の眉が少しだけ動いて俺を見る目の力の強さに惹かれている事は事実だけれど。
「んなもん誕生日じゃなくても十分過ぎるくらい与えてるんで」
「与えられてんの?俺?」
「そうだろ?欲しい欲しい言うから与えてやってんだよ」
なんて冗談。だから笑いながら言う。それに初めての時にはもう分かっていた。こいつとの体の相性は恐ろしい程に合っているって。
「あ、じゃぁ提案!」
嫌な予感しかしない。頭のキレるこの男が言うことって多分冗談では無いし天然でもない。本気で言うんだと思うとある程度の覚悟も反応も必要。
「なんだよ、提案って」
「プレゼントさ、一生翔さんを抱ける券とか良くない?俺って天才かも」
「……券?」
「そ。翔さんを一生抱ける券!!」
二度言ってからの目が少年のそれみたいにキラッキラで。そんな男を見て、券と言うアイデアも少年の様だと思うのは俺だけなんだろうか。
「……券……って、子供かよ」
「え?めちゃくちゃ良くない?内容は大人だし」
「いや、まぁ……そうだけど」
「ですよね?なら決定で」
「いやいやいや、他になんかあるだろ?」
「んーーー……」
そうそう、ちゃんと考えてみれば絶対にあるはずなんだから真剣に考えるべき。プレゼントはもう用意してあるけれど、今からでも追加は可能。服とか靴とかでも良いし、美術品とかも好きだからそっち系でも良い。
「あ!」
「お?」
「毎朝キスしてくれる券ってのも良いかも」
また真顔だ。そして分かったことが一つ。俺の考えている方向性とこいつが考えている方向性はそもそもで違う。
「さっきと変わんねぇじゃん」
「全然違うでしょ。さっきのはさ、毎日とは言ってなかったけど、こっちは毎朝だから」
「んな、毎朝会う事なんてねぇだろ」
「今はね」
「なんだよ、そのうち毎朝会うようになるわけ?」
そんな日が来ることを想像した事は無い。そもそもで付き合ったばかり。それに俺と付き合う前までは友人と飲み歩いたり家に呼ぶ事が好きでそれはかなりの頻度だったのに。そんな男が誰かと暮らすなんて無理な話だと思う、物理的に。
「ダメ?」
「ダメとかじゃくて。なんつーか、非現実的だなと思っただけで」
「なんで?」
「いや、だってお前、友達重視じゃん。俺なんかがいたら邪魔になるぞ?」
邪魔という言い方は意地悪だったかな。正しくは負担。俺の事を優先しようとしたらきっと負担になると思う。自由にやって良いと俺が言っても、この男は俺に対してだけは何よりも俺の事を優先してしまうだろうから。
「いんだよ」
「良くねぇだろ」
「いんだって。翔さんといることが出来ない寂しさを紛らわすのに人といたんだから」
俺の片思いの長さ舐めないで欲しいわ、と唇を俺のそれに寄せた。
「……で、どっちがいいんだよ」
「んー?舌 入れるか入れないかー?」
「アホか、違ぇわ。つーか、もう入ってただろ」
「まぁね」
涼しい顔をしやがって。全くこの男ってやつはどこまで俺を翻弄させるつもりなんだろうか。
「今のキスの話じゃねぇ、券の話」
真面目に言っていたように思っていたけど、実は違うのかもと正直半々で。だけど、内容は悪くない。一生抱かれるのも毎朝キスをするのも。そんな事が可能なのかは今は分からないけれど。
「来年の分先取りで両方お願いします」
「両方?!」
「なんなら再来年の分も」
「再来年?!再来年のはなんなんだよ」
「このままずっと一緒に暮らす券」
「なんだそりゃ。その時点でもう一緒に暮らしてる設定かよ」
最近一緒にいることを決めたばかりなのに。お互い事は自分の事よりも分かっているのかもしれないけれど、だけどそんなに話が急に飛ぶなんて。計画を立てることが上手いこいつにしても随分と早い。
「そだよ?今年の誕生日……あ、あと数時間だね。それが一生抱ける券。即有効でしょ?で、来年の毎朝キス券のために明後日から部屋探し。いい所知ってるんで。で、来年までには一緒に住む。で、再来年の誕生日にはもう一緒に暮らしてるから、その先もずっと一緒に暮らす券」
完璧じゃん?と得意になりながらいつの間にか俺の服のボタンを外し始めている。
「随分としっかりお考えのようで。で、この手はなんだ?」
「当たり前でしょ?何年も前から翔さんと付き合えた時の為のシュミレーションしてきたんだから。……と、この手はこれから翔さんを可愛がります」
「何年も前……付き合ってねぇだろ。つーか今からやんの?真昼間だけど?」
「先の事までちゃんと考えてた俺、偉いよね。で、今からやりますよ?明るいからいいんじゃん」
「まだ券あげてねぇけど?」
「それも先取りで」
だから良いよね?と言った時にはもうボタンは全部外されて、潤の手が優しく俺の体を撫でた。
20220830
Happybirthday MJ