抵抗されるのは想定内。
男に押し倒されて喜ぶ男なんて……、まぁいるけど櫻井君は違う、と思う。
一度目のキスをした時に自分からしたかったと言った男気タイプの櫻井君がオレに押し倒されるなんて、きっとまた予定外だと言うんだろう。
予定外な上に想像もしていなかったと思う。
例え櫻井君の今までの言動や行動がオレへの好意だとしても、その先のリアルが櫻井君の中にあるとはオレには思えなかった。
「あ、あのさ、……俺……」
抵抗は想定内。いくら二度目のキスを櫻井君からしてきたとしても。だからここでの拒否拒絶も当然想定すべき。嫌がられた瞬間やめることは決めていた。
「なに?」
だからと言って自分から終わりを告げる事はしたくない。ソファーに押し倒してからしたキスはまたオレからで、それへの抵抗はない。
だけどその先はやっぱり無理かな。キスをして、それから首筋に舌を這わせて、Tシャツの中へ手を入れたタイミングでこの反応ということはきっとそういう事なんだろう。
「……あ、……えっと」
だけど、拒否をされた感はない。嫌ならもっと強い力を体のどこかに感じるはず。今の櫻井君からはそれを感じない。
「続けていい?」
だからTシャツの中にある手は櫻井君のサラサラな肌を堪能するかのように撫で続ける。ものすごく気持ちが良いと思いながら。できることならやめたくないと思いながら。
「それは……いいんだけど」
「ふふ、良いんだ?嫌なら言って?やめるから」
自分から終わりの言葉を告げたくないと思ったばかりなのに、意外な反応に嬉しくて思わず言ってしまう。今の言葉から、櫻井君が拒否拒絶をしない事が分かったから。
「嫌とかじゃなくて」
だけど、嫌じゃないなら他に何がある?このタイミングであえてオレに何かを伝える何かが分からない。
「それなら何?」
嫌ならやめる。それは絶対。だけどもし、続く言葉が否定的ななにかでは無いのなら、このまま続けてしまうかもしれない。
「あの、さ」
だけどさすがにそんなことは有り得ないだろう。今のこの状況だって、ここに来る時までは空想上のものだった。例えば手を繋いだりキスを許されたとしても。
「ん?」
だけどやっぱり否定的な何かを感じることはないくて、その事で、もしかしたらと期待だけが大きくなった。
「……引くなよ?」
そう言った櫻井君の体が熱くなるのがわかった。その体温の上昇がオレにも伝染る。
「引くことなんて何も無いよ」
首筋に舌を這わせたまま言うオレに、少しだけ擽ったそうに身を捩った櫻井君が、耳元に唇を近付けて小さく言った。
「……すげぇ勃 っちゃった。やばいかも、俺」
反則だと思う。初めての男との抱擁で反応すること自体が想定外の出来事なのに。むしろ嫌がられることの方が想定内だったのに。耳に触れそうな距離で言う櫻井君の声の妖艶さが半端じゃない。
「……男相手に 勃 つんだ?」
上がるテンションをどうにか抑え込もうと実はめちゃくちゃに必死。今のこのタイミングで思い切り喜ぶ様なんて見せたくなかった。オレの前ではカッコ良くありたいと言っていた櫻井君だったけど、それはオレだって同じだから。
「男相手にって訳じゃねぇよ」
首筋に顔を埋めたまま聞こえる櫻井君の声はものすごく近い。低めなその声が近すぎて、それだけで興奮は大きくなる。そんなオレを知ってか知らずかいつの間にかオレの頭を撫でる櫻井君の手の気持ちよさに甘えて
「こら、何してんだよ」
唇を這わせていた場所を思い切り吸った。
「オレだから?」
サラサラだった櫻井君の肌が少し汗ばんでいる。付けた痕の事は何も言われない。
「決まってんじゃん」
他の男とは考えたくもない、と痕を付けられてもまだオレの頭を撫でる手をやめないで櫻井君が言う。
「決まってんだ」
また強く吸い付きたい衝動にかられながらも抑えた唇は、今度は櫻井君の首筋に痕を残さないように弱く何度も何度も吸う。
「そう、だよ」
それに反応する櫻井君の声はまるで喘 いでいるかのようで
「触っていい?」
嫌ならやめる、なんて自制が効く自分を演出していのに、あっさりとそれ以上の声を聞きたくなってしまった。