初めて会ったのはいつだったかな。
いや、正しくは、会った、訳では無い。一方的に俺が見つけた。
本当に一瞬だったのに、よく見逃さなかったとあの日の自分を何度褒めたか。
でもきっと俺は、あのタイミングじゃなくても見つけていたと思う。
だって、どうしたって見逃すことなんて出来ないほどにキレイだったから。
その現場は楽しくも何ともなかった。仕事だからいるだけ。警備の仕事をしていたのは、フラフラとしていた自分を唯一拾ってくれた場所だったから。恩はあったけれどやる気があった訳では無いのに良く続いたと今でも思う。
「櫻井さん、あと少しでお時間です」
「はい、大丈夫です」
「本番もよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
人生とは分からないもので、どこの誰が流した情報なのかは今も分からないけれど。イケメンの警備員がいる、と言うSNSの書き込みからマスコミや芸能事務所が辿り着いたのがまさかの俺だった。
「翔ちゃん!」
スタッフさんが声をかけてから出て行った戸がまたすぐに開いて、聞きたかった声が聞こえてきて驚いた。
「相葉君じゃん!あー、びっくりした!」
戸が開いた瞬間は聞こえなかったノックの音に多少の苛立ちを覚えたけれど、その相手が相葉君ならば話は別。
「ごめん、ノックしようと思ったんだけど」
「全然いいよ。だって相葉君だもん」
「ほんと?なら良かった!スタッフさん出ていったの見えたから勢いで開けちゃった!」
正直な言葉が可愛いくて参ってしまう。あの日見つけた綺麗だと思った印象が、それだけではなく日々色々と発見するのは楽しい。
「相葉君も今日一緒?じゃないよな」
「あー、オレは別。隣のスタジオ。翔ちゃんの司会の番組やってるって聞いたから来ちゃった」
くふふ、と笑いながら楽屋にあるソファに座るところを見ると相葉君はまだ時間に余裕があるらしい。
「相葉君が出るってことはスポーツ系の番組?」
「正解ー!メインがオレだって言うから緊張するけどね」
「はは、良く言うよ。相葉君がどんだけ注目されてるかなんて俺だって分かるし。余裕だろ?」
「いやいやいや余裕なんてないって!試合とこういう仕事は全然ちがうじゃん?だからめちゃくちゃ緊張だって、マジで」
人人人!と言いながら掌に文字を書いて飲み込むふりをするのもまた可愛くて笑ってしまう。バレないようにクスクスと笑ったつもりがバレバレだったらしくて少し睨まれた。
「櫻井さん、お時間です。よろしくお願いします」
もう一度来たスタッフさんの声に座っていた椅子から立ち上がってスーツを整える。
「翔ちゃん、ネクタイ曲がってる」
同じタイミングで立ち上がった相葉君が、俺のネクタイを直してくれるだけで嬉しいなんて、当の本人は知らないんだろう。
「サンキュ。あ、そうだ。今度飯でもどう?お互い忙しいけど……」
「わぁ、行く行く!焼肉がいいな!」
「はは、了解!とりあえずこの収録終わったら連絡する。忘れない内に」
「はーい!期待しないで待ってまーす」
じゃ、頑張ってね!と明るく手を振りながら相葉君が自分の楽屋に戻るのを見てから、これから始まる仕事のスタジオに向かった。