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「はぁ、ダメだ……」




どうやら散々悩んだ末、答えは出なかったらしい。最終的には目を瞑って腕を胸の前で組んで真剣に悩み始めたからもう可笑しくて




「ははっ、そんな悩む?」




なんて言ってみるけれど。でも俺としては可笑しいと思う反面、自分の事にそんなに悩んでくれるんだと思うと嬉しかった。










ハグがどうだとか悩んでいる雅紀に、二宮との有りもしないハグのことを悩むよりも目の前にいる俺を抱く気は無いか?と、ただ抱きしめるという意味で言ったんだけど。どうやら意思の疎通は出来ていなかったらしい。





「そんなの有るに決まってるでしょ」




今の今までめちゃくちゃ悩んでいたくせに。俺のそんな一言で速攻変わる態度が俺は好きで。




「なら、どうぞ」




抱きしめられるつもりで開いた両腕の中に雅紀が来てくれたことが嬉しくて。だから包むように抱きしめようと思ったのに





「んっ……、おい……」



「んー?」



「えっと……ネクタイ外す必要ある?」





俺の首元にある雅紀の唇はそのまま首筋に舌を這う。俺の背中に回ると思っていた手は、そうじゃなくて俺のしているネクタイを外しにかかった。





「翔さん、着たままがいいの?」





外さないってことはそう言う事だよね、とまだ舌を這わせながら言うけれどそうじゃない。さっきの俺の言葉はハグの意味での抱くってやつ。だけど雅紀が捉えたのは、抱く=セッ クス。要するに俺が誘ったって事になっているんだろう。





「そう言う意味じゃねぇけど……」



「違うの?それならいいよね?」




なんて、何かに納得したらしい雅紀は、そう言いながらネクタイを外して、それを床に落とした。












「髪、伸びたな」




ネクタイを床に落とした雅紀はその場で俺を抱いた。こんな場所で?と前に思った事があったけれど、今日は不思議と思わなかった。




「あぁ……」




何の準備も無かったのに、痛みのない行為に雅紀の優しさってやつをまた感じて。その事がさらに俺を気持ちよくさせたのは間違いなかった。





「撮影か何か?」





玄関で後ろから俺を抱いた雅紀は、俺が一度果ててからすぐに俺の事をまた軽々と抱き上げて寝室に向かった。痩せたと思う体からは想像出来ない力は、前みたいに抱き上げられる事が不安だとはもう思わなかった。








「……違うよ」





玄関でのあと、ベッドの上で何回も俺を抱いたくせに、まだ俺に飽きていないことに感心すらしてしまう。俺の体を離そうとしないで抱きしめ続けるから正直暑い。





「じゃあ何?単純に伸ばしてんの?」



「んー、そんな感じ」



「ふーん。……仕事に支障ないなら良いのか」





会社勤めの自分にはなかなか出来ないからつい気になってしまうけど、雅紀の仕事的には何の問題も無いんだろう。





「好きじゃない?」



「ん?髪?」



「うん」



「いいんじゃない?サラサラですげー綺麗」





今は濡れてるけど、と言いながら雅紀の髪に触れる。髪の色は先の方にいくにつれて明るくて、実はその明るさも好みだったりする。




「じゃ、もう少しこのままにしようかな。本当は明日にでも切っちゃおうかと思ったんだけど。お願いごと叶ったから」





体を少し起こした雅紀が、俺に覆い被さるようにしてキスをする。その前にその髪を耳に掛けるのもまた良い。





「願い事?なら、願掛けで伸ばしてたってこと?」



「そ。翔さんが逢いに来てくれますように、ってね」






女々しくてごめん、と目を伏せる雅紀の髪がやっぱりものすごく綺麗で。それを下から見ながら俺は実はめちゃくちゃに欲情していた。