弟とやるのは嫌じゃなかった。
もちろんダメな事をしているとはわかっていたけれど。崩壊寸前だった弟を助けているんだと思うと、兄として彼を救えているような気すらしていた。
家族が減ってしまったことで起きた弟の心の中の空間を、俺の体で満たせるならと。そう思っていたのは自分に対しての庇護だったのか。
違うか。
そうじゃなくて本当は、親がいなくなってしまったという現実を、弟を抱くことで、弟を助けているんだと思い込むことで
その辛さ自体を俺が忘れようとしていたのかもしれない。
「解放してあげる」
彼の言葉に涙が出た。俺は何かから解放されたかったんだ。いや、解放されなくても良いから、俺の中にある強いプレッシャーを誰かにわかって欲しかったんだ。
「ぐちゃぐちゃじゃん」
なんの事を言っているんだろう。涙の事だろうか。それとも使った潤滑の液体のことだろうか。ぼんやりとする頭で考えるけど、何にせよ自分のせいだろうという事しか分からない。
「……ごめ」
少し考えたあとで、もしかしたら何度も何度も出してしまった 体 液 の事かもしれないと思いついたのは、彼の体も俺のそれで濡れまくっていたのが見えたから。
俺の言葉に軽く頭を撫でてくれるだけでそれ以上何も言わない彼が、手の届く場所にあるティッシュを箱ごと掴んでから数枚抜いた。そして俺の顔を優しく拭いてから、続いて体も拭くために手を伸ばした。
「……気持ち悪」
ヌルヌルとしたそれが気持ち悪いのはきっと自分のだから。
「って、俺がやるからいい」
急に恥ずかしくなって、そう言ってから箱に伸ばした手は、彼の手で掴まれた。
「まだ終わってない」
「……え?」
「翔さん、まだでしょ?」
あんなにも何度も何度もいかされて、まだ、なんてことは無い。体中の液体が全部出てしまったんじゃないかと思うくらいに体が水分を欲している。
「いや、もう無理。お前凄いんだもん」
「そうじゃなくて」
「は?いや、まじで無理。ぶっ壊れる」
「だから、それ」
「は?」
「翔さんはもっともっと壊れていいと思う。もっとさ、出していいのに、自分を」
今まできっと我慢ばかりしていたんでしょ、と言われて何も言い返すことが出来なかったのは、その言葉を今まで誰にも言われた事がなかったから。だけど、瞬間的に分かった。俺はこの言葉が欲しかったんだ、って。
「ほら、また泣く。泣くほど我慢してたんだね、きっと」
少し拭いてもらったくらいではまだ、濡れまくった体は十分ではない。それなのに、その事を気にもせずにまた俺の事を抱きしめてくれるから。
「……うるせぇよ」
言葉とは反対に、抱きしめられた腕に甘えてしまった俺は、そのまま甘えさせてくれる彼に甘すぎるくらい優しく思い切りまた泣きながら抱かれてしまった。
この人の隣で寝る事がものすごく気持ちが良いと思った。散々やられた体は辛いはずなのに。疲れたからと言う理由ではなくて、時間は短いのに凄くよく眠れた気がする。
「……重い。つーか動けない……」
これじゃ寝返り出来ねぇじゃん。そう思うくらいに腕も足も絡みつくように抱きしめられていたらしくて笑える。良く眠れたけど、多分少なかったであろう寝返りの代償はデカいかも。
「体痛てぇ。つーか、マジでなんなんだろ、こいつ」
体の筋肉が痛いと思いながらも、気持ち良さそうな寝息を立てる彼を見てますます笑えてくるのは、その寝顔が俺を抱いている時とは全然違うから。
「くく……、平和そうな顔してんな」
寝ている彼の頬をかるく突くと、表情が変わって笑ったように見えた。
そしてそんな彼を見て、ヤバいと思いながらも幸せを感じた時に
『守ってあげられなくてごめん』
久々にその声が頭の中に突然聞こえてきた。