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モデルだと言うその彼の、エントランスに入っていく後ろ姿を見て自然と足の速度が速まった。





「こんばんは」




彼がエレベーターに乗る前に間に合って良かった。接点がこの空間しかないんだから、逃したら次がいつあるのかわからない。




「あ、どうも。お仕事の帰りですか?」




イヤホンをわざわざ外してくれるところに、また「いいな」なんて思う。




「はい。今日はいつもより早目で。もう少し遅い方が日常かな」




特別何かを意識した訳では無いけれど、自分の話し方がいつもと違う事に自分で照れた。









「何階ですか?」




これってさり気にまた新しい情報を得るチャンスかも。聞いた階は俺の住む階よりも上なのは確か。過去の数回、俺が後から乗り込んだんだから間違いない。




「あぁ。すみません、25階お願いしていいですか?」





言われてから押した25と言う数字を直ぐに頭にインプットする。俺がそこに行くことなんて無いことは分かっていながらも、万が一、があるかもなんて。





「景色すごいでしょ?俺のとこでもそこそこなんだから、あれ以上なら最高だろうなぁ」




「……景色、か。そうかもしれませんね」




「あまり見ない?」




「越してきてから日も浅いし、不規則な生活なのでブラインド開けることがほとんど無くて」




「なんだ勿体ない。俺なら逆に一日中ブラインド開けておくのに」





25という数字を頭に入れて、それから想像する。リビングから見える我が家の景色よりも遥かに良いであろう風景は、彼の部屋だからと言うことじゃなくても興味が湧いた。





「好きなんですね」




「え?」




「景色、とか」




「あ、あぁ。……まぁ人並みに」




「じゃ今夜開けてみようかな。一緒に見てみませんか?今なら夜景が綺麗でしょ?」






彼の言葉に、え?っと思ったのと同時に俺の部屋の階で開いたエレベーターの扉は、驚いて彼を見ているうちに閉まってしまった。















「名前は?」




「……名前……?」




「なんて呼べばいい?」





目の前で閉まったエレベーターの扉が次に開いたのは彼の住む部屋の階だった。そのままエレベーターに残って自分の部屋の階まで下がることだって出来たのに。掴まれた手首を振り払うことをしかなかった俺は、彼が俺に何を求めているのかをその時点で瞬時に理解していた。






「翔」




「しょう?どんな漢字書くの?」




「羊に羽」




「苗字は?」




「櫻井」




「櫻井……翔、か。名前まで好み」




「は?」




「ふふ、なんでもありません。ねぇ、もう一回していい?」







ベッドの中、隣で綺麗に笑う彼が、エレベーターを降りてからこの部屋の玄関に入って直ぐに、俺を抱きしめるのと同時にしてきた深すぎるキスに体が熱くなってしまった。





そのまま玄関からすぐ近い寝室で、服を脱がされている時も、自分の喘ぎ声が聞こえてきた時も、こんなつもりじゃなかったのに、なんて少しも思わなかった。





「すげぇな。何回すんだよ」





そう思わなかったのは、自分がいい歳の大人であるということともう一つ。





「ふふ、何回だろうね」





目の前でエレベーターの扉が閉まった瞬間から俺はきっと、彼とこうなるだろうと分かっていたから、だと思う。