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物語を創る者として

小説を書く方もそうでない方も、創作をする者全てに。物語を創る者として、文章力などのスキルよりも大事なものがある。それを書いていきます

おこんばんは!
今日もアナタの癒し系! 沁です!

お前は俺がこの手です!(`・ω・´)キリッ

内容と相反した挨拶をしてみたい。
そんな矛盾との共存が僕クオリティ。

今日も「□■ ミタサレル □■」の続きです。



本編はこちらからー。

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...



「この間なんてね、店長が自分の接客態度が悪い、なんて言うんですよ。自分なんてお客様相手にぴくりとも笑わないくせにね」

 ――落ち着こう。

 いくら城戸さんの笑顔に違和感があるからって、ただの笑い話としての軽い愚痴じゃないか。城戸さんも僕も最近は付き合う友人も少ないし、仲良くなれば愚痴ぐらい零すのは当然だ。今の話だって、多くの店員が思うことの一つじゃないか。

「……そういえば僕、店長を見かけた事ないですね」

 城戸さんは気付いたように「ああ」と相槌を打ってから仕事の手を止めて、レジに両手をついてもたれかかるようにして溜息を吐いた。

「店長、全然動かなくなっちゃいまして」

「あー、どこもそんなもんですかね」

 僕も苦笑で返す。

 でも、何かが引っ掛かった。それが何かと考えれば、さっきの笑顔なんだろうけれど……あんな満ち足りた表情で愚痴を言っている人を見たのは初めてだ。そのせいで、さっきから城戸さんに違和感がある。でも、違和感の正体はきっと、それじゃない。

 “うちの店長は全然働いてくれない”という愚痴なら世間一般でもよく聞くんだけれど……“動かなくなった”なんて愚痴はあまり聞いた覚えがない。きっと、その言い方のせいだ。城戸さんも変な言い方をしてくれる。

「所で坂木さんは、いつもこの時間に来てくれますけど、夜のお仕事なんですか?」

 不意に城戸さんから質問の声が上がった。あまり聞かれたくない質問だった。

「え? ああ……僕は在宅の仕事なので、時間の自由が利くんですよ」

「在宅ですか! いいなあ」

「つまんないですよ」

 興味を惹いてしまったようだけれど、僕は苦笑でそれに応じる。同世代の人に聞かせたい仕事じゃなかったからだ。

「えー、教えて下さいよ。坂木さん、いつでも退屈だとか満足しないとか言ってますし、そんな人がどんな仕事してるのか気になりますよ」

「いやぁ、これは教えられません。嫌われそうですし」

 本当に教えたくなかったのではっきり言っておいた。僕は今の仕事のせいで友人を失ったようなものだったので、誰であろうと話す気はなかった。

「何の仕事でも嫌いませんから教えて下さいよ」

「うーん……」

 思わずどう対応していいか困って頭を掻く。

 よくよく考えてみると、もう何日かすれば僕は海外に行く予定があるし、どうせ城戸さんとも会えなくなる。そもそも、嫌われようと好かれようと僕がやろうとしている事になんの違いもなかった。要するに僕に取ってはデメリットもメリットも一切ない。

 でも、メリットも無いのでは話す気にもなれないのは、僕が損得勘定だけで動く卑しい人間だということなのだろうか。だとすれば、接客でここまで良くやっている城戸さんなら、その答えをくれるかも知れない。なら、話してもいいんじゃないだろうか?

「そうですね……。じゃあ、城戸さんが満たされるのはどんな時か、それを教えてくれるなら僕も教えてもいいですよ」

「本当ですか? じゃあ先に坂木さんからどうぞ」

 誰も客がいないコンビニの中。

 無邪気に嬉しそうに期待して僕の話を待つ城戸さん。

 人通りの少ないコンビニ前の道を歩く野良犬。

「僕の仕事は――」

 パーカーの中から手を引き抜く。

 流行の歌や新曲、宣伝を垂れ流すつまらない場違いな音楽の中――僕は店員に銃を突きつけた。

「強盗です」

 呆けた城戸さんの顔。未だ場違いに流れ続ける安いBGM。外で鳴る音は風の音ばかり。

「本当は銀行や大きな場所をいつも狙うので、コンビニ強盗は実は初めてです。強盗は本来、成功したとしてもその後に捕まる可能性が非常に高く、最後までやり遂げたという成功例はあまりありません。ニュースで流れる僕の名前、下らない評論家が日本の警察を延々と扱き下ろすつまらない番組。新聞の一面を飾る僕の名前。大勢の人が僕のせいで翻弄する事が、今……僕の中で一番退屈しない方法です」

 無表情に機械的に淡々と自分の事を述べる。ああ、つまらない。結局は彼も恐怖に怯え現金を差し出すのだろう。

 “強盗に入られたら無理に犯人を捕まえようとせず、レジの中の現金を大人しく渡しながらレジ裏の緊急ボタンを押し、襲ってくるようならば事務所に入り鍵を閉めて閉じ篭り、犯人が去った後で警察に連絡。その後に経営者と本社に連絡をしましょう。”

 城戸さん……どうせ、貴方もマニュアルで動くつまらない人間なのでしょう?

「数日後に日本を発つので仕事をする気はありませんでしたが、これが日本での最後の仕事になり――」

 言葉は最後まで口から出る事がなかった。

 何が起こったのか分からない。話している最中、突然視界がぐるりと、世界がぐるりと回転した。まるで別世界に来たような気分になったと思えば、床にぶつけた右半身が軽く悲鳴を上げている。

 ――視界の中に宙を舞っている銃を見つけた。

 ――銃を持っていた筈の右手の、手首から先の感覚がない。

 ――首筋に何か冷たい感触がする。



 眼前に――

「じゃあ、自分の満たされる時を教えますね。坂木さん」

 笑顔の城戸さんがいた。



 綺麗に舞い上がる赤い噴水。

 立ち上がるコンビニ店員。

 店員の左手にぶら下がる不釣合いなコンバットナイフ。

 刃先を伝って滴る赤。

 眼鏡の位置を中指で押し上げ直す店員。



 眼鏡の奥の瞳で。

 手の平に隠れた口元で。

 不釣合いなBGMの中で。

 笑う、嗤う、販売員。





「人を殺す時――ですかね」





 ――ミタサレタ笑顔デ。