石坂浩二主演の金田一シリーズ、調子に乗って第三弾です。
↑ポスターは海賊を捕まえる為に山を林を駆け回る時の金田一。蔦を使って颯爽と距離を稼ぎますが着地はお粗末でした。

ちょっとした疑問ですが、今は第二次世界大戦のことはどれくらい習うのでしょう。

私の子どもの時分は、戦後、ん十年経過してましたが、まだまだ忘れ去られたわけではなく、語り部たちも健在で、資料も豊富にありました。
東京在住の私は東京大空襲の話とスライドを何度も観ました。

「獄門島」
昭和21年のことです。終戦が20年です。国外に派兵された兵隊さんはそうすぐには戻って来られず、その後何年も経ってから復員してくる人達もたくさんいました。

傷痍軍人っておわかりでしょうか。戦争で怪我をされて体が不自由になった人も多くありました。
私の小さい頃には傷痍軍人さんのフリをしている人もいて、父は「工場なんかで手や足を怪我しただけの人なんだよ。」と半ば怒りを持って、幼い私の目を逸らさせたものです。本当、小さい頃のことってどうしてこんなによく覚えているんでしょう。夫に聞いても何それ?って感じなので、かなり小さい時の記憶と思います。
父がどうやって本物と区別したのかも謎ですが、年齢的におかしいってことだったのかもしれないです。

金田一は松葉杖をついた傷痍軍人と行き違いますが、落とし物をしたその人を目で追うと、なんと踏み切りで使っていた松葉杖をかつぎ、走って渡って行きました。

その人も偽物だったのですね。
傷痍軍人はお国の為に怪我をされて命からがら戻ってきた人達なんですから、それは大事にされますよね。大した怪我もなく復員したのに大怪我をしたフリして甘い汁吸おうという輩も少なくなかったに違いないです。

そもそも、この傷痍軍人(復員兵)が現れなかったら。


金田一は獄門島に行く為の船に乗ります。
船に乗る際に獄門島に暮らす了然和尚、村長の荒木、漢方医の幸庵と乗り合わせることとなります。
和尚達は戦争で召し取られた釣鐘が鋳つぶされずに返されたのを引き取ってきたのです。

第二次世界大戦中に金属回収令という勅令が公布されています。武器を作るために金属が必要だったんでしょうね。
敗戦して廃止されました。

金田一は友人の雨宮から頼まれごとをしていました。
雨宮は獄門島に暮らしていた鬼頭千万太が復員する際に臨終を見届け、千万太は雨宮に手紙を託したのです。
手紙というよりメモ?日記のような感じです。もっと詳しく書いて!
手紙を預かった雨宮も病に伏し、金田一が千万太の家族へ知らせることとなりました。

原作では雨宮というワンクッションは入らずに、金田一本人が千万太と戦友となり、復員船で同行して臨終に立ち会いました。

先に行き違った復員兵は鬼頭一(ヒトシと読みます)の無事の知らせを獄門島の鬼頭早苗らに伝えに来て、一方の金田一は一の従兄弟の千万太の死を知らせに来たわけです。
そして釣鐘の復員。釣鐘が帰ってこなければ…


千万太は今際の際に妹達を案じていました。
自分が生きて帰らないと妹達が危ないと言うのです。
なるほど金田一が依頼を受けるわけですね。

さてさて今回も見立て殺人の始まりです。

今回の見立て殺人は実は俳句なんですが、その俳句が書いてあった枕屏風の文字が達筆過ぎて金田一は読めませんでした。痛恨。
原作でも三つの句はなかなか読めませんでした。
「むざんやな冑の下のきりぎりす」
「一つ家に遊女も寝たり萩と月」
共に芭蕉の「奥の細道」で学校でも習ったのでなんとか解読する金田一ですが、三句目は其角の有名な句ですが、どうにも読めませんでした。磯川警部が教えてくれたのです。金田一が全ての句を読み解いた時に目から鱗の出来事が発覚するんです。
これは本で読んだ時の方が心震えました。

登場人物
おなじみさんから紹介します。シリーズレギュラー出演または準レギュラー出演の俳優さん達です。
金田一耕助(石坂浩二)ますます頭がもっさりしていますね。地毛だとしたら大変な手の入れようです。
床屋のお七(坂口良子)とお父さんの清十郎(三木のり平)
奥さん役の沼田カズ子さん(右上)も何気なくレギュラーですね。元々スタッフさんを市川崑監督が起用したらしくて役者さんじゃないから棒読みだったり表情なかったりでそこが面白いんですよね。狙い通りと思います。
復員詐欺の男(三谷昇)
犬神家では指紋の照合をする鑑識課員でした。
上段 阪東刑事(辻萬長)と等々力警部(加藤武)
原作では磯川警部なんですけど、若山富三郎の再登場は叶いませんでしたね。
阪東刑事は「悪魔の手毬唄」と同じようなミスをやらかしますけど、後々責められている様子もない。
下段は漁師の竹蔵(小林昭二)  力仕事したり、泳いだり、おやっさんたら肉体派だったのね。そう言えば「病院坂の首縊りの家」でもなにかと力仕事を引き受けてくれましたね。

分鬼頭(わけきとう)儀兵衛(大滝秀治)今回も事情通な人物で助かります。独特の語り調子に引き込まれます。巴の年の離れた夫。
儀兵衛さんに後述のお小夜のことや嘉右衛門さんの話を聞いている時にすぐそばで作り物の花を取る手が現れますが金田一は気づきません。痛恨。何に使うの?

お小夜(草笛光子)与三松の後妻(故人)で三姉妹の母、お芝居したり御祈祷も出来ます。出産も自由自在。産みたい時に産めます。すごーい。
勝野(司陽子)この後「女王蜂」にも出演。原作では嘉兵衛さんのお妾、金田一がお勝のことを「五十くらいのばあさん」と表現します。戦慄。
独身女性が飼うのは“猫”と今も昔も決められているらしい。

獄門島に住む人々
真ん中
了然和尚(佐分利信)この方も田宮二郎版の「白い巨塔」に出てました。後ほど紹介しますが太地喜和子も出てました。
「白い巨塔」には「犬神家の一族」の島田陽子、小林昭二、大滝秀治、小沢栄太郎、「悪魔の手毬唄」の中村伸郎なども出演しています。ちょうど1978年の作品でこの頃活躍していた俳優さん達ということですね。私は再放送で観たんですけど、また観たいです。本も面白かったと記憶していますが、絶対喫煙者になるまいと思うほど肺がんの描写が怖かったです。

荒木村長(稲葉義男)古過ぎて知らないと思いますけど「ザ・ガードマン」の人って印象が強い。渥美清版「八つ墓村」にも出てますよ。落武者役で。

漢方医幸庵(松村達雄)「男はつらいよ」二代目おいちゃんで有名です。
鬼頭早苗(大原麗子)は一の妹で千万太の従妹です。与三松は伯父にあたります。顔も可愛いけど、声もいいですよね。この方は。富士額もいい。
上段
鬼頭与三松(内藤武敏)ご乱心あそばして座敷牢に隔離。千万太と三姉妹の父。
下段右から
鬼頭月代(浅野ゆう子)花子(一ノ瀬康子)雪枝(中村七枝子)19歳を頭に年子のほとんどご乱心の姉妹です。座敷牢一歩手前。与三松とお小夜の子ども。千万太は異母兄。早苗は従姉。長女月代は母譲りで御祈祷もします。

島には本鬼頭と分鬼頭という網元があって、元は親類筋でしょうが、袂は分かれて敵対する立場にあります。仁礼家と由良家のようですね。
本鬼頭の主人、てか親分?原作では太閤さん、鬼頭嘉右衛門(東野英治郎)故人。獄門島の大網元。与三松の父。千万太、一、早苗の祖父。私達の時代は水戸黄門と言えばこの方でした。

左、分鬼頭巴(太地喜和子)妙に色香の香る人です。「白い巨塔」でも、主人公の五郎の愛人でした。50を前に事故死されています。残念なことです。美人薄明。
今作品でも色っぽい。着物がお似合いです。

右、鵜飼章三(ピーター)最近は池畑慎之介さんと名乗られてますよね。ちょっと前は役者さんやられる時だけ池畑慎之介で、タレント活動はピーターを名乗られていました。この頃は役者活動もピーターですね。ピーター・パンのピーターらしいですよ。
清水巡査(上條恒彦)はよそ者の金田一を怪しんで投獄します。その間に第二の殺人が起きてしまう。痛恨。
「金八先生」の服部先生です。私は「リトル・マーメイド」のセバスチャンがすごく好きです。歌手なだけに歌もいいんですよね。
勝野の少女時代は荻野目姉妹です。
左が荻野目慶子
右が荻野目洋子
姉妹共演と書いてあるものもありますが、細かくいうと一人の役を二人で演じたようです。洋子の方はクレジットされていません。

映画では原作にはない勝野の生い立ちが詳しく描写されます。
写真からもわかりますが勝野は幼い頃に父に死なれ、故郷を追われて母とお遍路さんをしたようです。旅の途中で母を亡くし、行き倒れているところを了然和尚に助けられて、本鬼頭に下働きに来たのです。

ネタバレになりますが見立て殺人はこんな。
最後の其角の句は「鶯の身を逆さまに初音かな」でした。

殺されるのは三人姉妹です。まぁ、察しますよね。三人三様に俳句に見立てられますが、金田一はくずし字の俳句を読むことができず、何に見立てられているか長いこと気づくことが出来なかったわけです。その為ある人の漏らした言葉の意味を取り違えてしまうのです。
句を読むことができれば犯人はわかるのでしょうか。
だいたい、三人の娘達はなぜ殺されたのか。
千万太はなぜ妹達に危険が及ぶことを知っていたのか。

早苗は金田一に自分は島を出たことがない、連れ出してほしいと口にしてしまいます。
あんな美人にそんなこと言われたら、断れませんよね。早速荷造りします。というのは嘘です。寅さんと同じ。シリーズものの主人公の恋は実りません。そもそも恋にも発展しません。

原作の方は金田一が東京に行こうと誘うんですけど。たまには潤いが欲しくなりますよね。こう、人殺しばかり見ていたら尚のこと。でも秒で失恋。すぐに断られるのですよ。

島には偶然にも海賊が流れ着き、しかも復員服を着ている為に捜査がややこしくなってしまいます。

犬神佐兵衛同様、本鬼頭の嘉右衛門にも死後人を操る力があるようです。

そして、偶然が重なり起こる悲劇。どれか一つでも条件が揃わなければ惨劇は避けられたでしょう。
防御率はさっぱりの金田一ですが、犯人とその動機、心情までも言い当てて事件は解明されます。

涙しながら鐘を打つ早苗。
船で島を後にする金田一、等々力警部、阪東刑事でした。


この作品は犯人が原作とちょっと違うんです。ちょっと?

映画をもう観たという方、そして原作を読んでいなければ是非読んでください。本は本で納得の結末です。原作は更にトリック満載。アリバイ工作もあります。

犯人の末路は映画の方が劇的です。