前回の「犬神家の一族」ご好評につき(?)金田一シリーズ第二弾。「悪魔の手毬唄」です。

1976年「犬神家の一族」が公開されて、翌年1977年4月公開です。その間は半年程です。結構短いですよね。

金田一耕助には勿論、石坂浩二。
お馴染みの磯川警部も登場します。
小説では磯川警部、「本陣殺人事件」以降何度か登場しますが、この市川崑監督のシリーズでは等々力警部に変えられていて磯川警部はこの一作だけです。
演じるは若山富三郎。
弟は勝新太郎ですね。
若かりし頃のご兄弟です。左が若山富三郎

余談ですが、友達のおばあちゃんが勝新さんの若かりし頃に近所に住んでいて、よく遊んでいる姿を見かけたけれど、それはそれはきれいな人だったって言っていたそうです。いい男、とか男前じゃなくて、きれいな人って表現が印象に残ってます。顔立ちの美しさはお兄さんより弟って話でした。
個人的には兄の若山さんが好きです。声の感じもね。ぶっきらぼうにしても親しみやすい、下がった眉毛が人の良さそうな印象を持たせてくれます。

原作によれば磯川警部と金田一は「本陣殺人事件」以来の旧知の中で、「獄門島」「八つ墓村」でも事件を解決したのです。

市川崑監督、石坂浩二主演の金田一シリーズは順番が
犬神家の一族
悪魔の手毬唄
獄門島
女王蜂
病院坂の首縊りの家
犬神家の一族(2006)
となりますが、小説の順番とは異なります。

勿論金田一登場の作品は短編も含めたらもっとたくさんあるのですが、市川監督の5作品を刊行順に並べると
獄門島
犬神家の一族
女王蜂
悪魔の手毬唄
病院坂の首縊りの家
となります。

同じく市川崑監督で金田一を豊川悦司が演じた「八つ墓村」は「獄門島」の次に入ります。


お話は亀の湯の息子の歌名雄(北公次)と由良泰子(高橋洋子)のイチャコラシーンからです。あとから村の青年達が合流し、その中の仁礼文子(永野裕紀子)が泰子にただならぬ視線を送ります。

青年団には村上五郎と仁礼文子の兄の流次もいます。三枚目役の五郎は大和田獏(真ん中)、リーダー的存在の流次は潮哲也(右)です。
潮哲也といえば
ライオン丸です。古いですけど〜。


金田一耕助は磯川警部に呼ばれ、ここ鬼首村(おにこべむら)の亀の湯に滞在しています。
ここで落ち合うはずが、どうやら磯川警部は仕事で遅れるようです。待っている間に金田一はお庄屋さんこと多々良放庵と知り合い、手紙の代筆を頼まれます。

多々良放庵(中村伸郎) は田宮二郎版「白い巨塔」の東教授ですよ。懐かしー

手紙の内容は放庵と元妻おはんとの復縁についてでした。

後からやってきた磯川警部の用向きは20年前の亀の湯主人、青池源治郎の殺人事件の解明でした。
磯川警部は未だに捕まらない犯人とされる恩田幾三と被害者の青池源治郎とが入れ替わっているのではないかという疑いを持っていました。何故なら遺体は顔の判別がつかないほど焼けただれていたからです。

今ならDNAで鑑定できますけどね。

磯川から犯人とされる恩田の詐欺行為について聞かされる金田一。村には恩田に騙され、財産を失っているものも大勢いたのです。磯川は恩田の常宿であった峠の向こうの総社にある井筒屋に話を聞きに行って欲しいと言います。

金田一が総社に行く途中の峠で“おはん”という名の老婆とすれ違います。
なんで名前がわかったか。老婆が「おはんでございます。お庄屋さんのところに戻って参りました。なにぶんかわいがってやってつかあさい。」とぶつぶつ囁きながらすれ違うんですよね。


井筒いと(山岡久乃) は多々良放庵とも懇意の間柄。なにかと事情通。
石坂浩二とのツーショットは懐かしの「ありがとう」を思い起こしますね。これも大分古いですけど。TBSの視聴率50%を叩き出したおばけ番組、水前寺清子主演のドラマです。

金田一は総社の井筒屋のいとに放庵の話をしたところ、手紙の相手のおはんはもうとっくに亡くなっているとのことでした。

???
じゃ、あの老婆誰よ?こわ〜っ


そして惨劇の火蓋が切られるのです!

ここで登場人物を紹介しておきます。

まずは亀の湯
20年前に殺された(とされる)源治郎の妻で女主人の青池リカ(岸惠子)と娘の里子(永島暎子)
里子を懐妊中に夫の殺人事件があったためなのか、里子の身体の半分には赤いアザがあります。
このアザのために普段はこもりきりの里子も歌手になった幼なじみの知恵の凱旋で外に出始めます。
岸惠子は当時44歳くらいです。元祖美魔女ですね。
里子の兄の歌名雄(北公次)
最愛の泰子との仲を認めてもらえずイライラ。

次は仁礼家

仁礼嘉平(辰巳柳太郎)
土地の権力者。
昔は対立する由良家の方に勢力があったが、近年逆転。更に恩田による詐欺被害で由良家の凋落は決定的なものになります。

咲枝(白石加代子)と仁礼文子(永野裕紀子)
白石加代子は金田一シリーズの常連です。ほぼレギュラー。

文子は嘉平の娘として育っていますが、実は嘉平の妹の咲枝の生んだ子です。つまり私生児ですね。事件が起きるまで咲枝は実父の名前を明かしませんでしたが金田一は察します。

由良家のご紹介 
由良敦子(草笛光子)と娘の泰子(高橋洋子)

落ちぶれたとはいえ仁礼家より由緒ある由良家。由良のおばあさんは「手毬唄」を覚えている数少ない人物です。ただ、手毬唄を歌うのが事件の後なので金田一は頭を抱えます。歌詞がわかれば次の被害者もわかるからです。次(二番)の歌詞を思い出して欲しいのにボケててダメなんですよね。

原作での金田一の解釈だと、このおばあさん、わざと教えないんですよね。狙われているのが誰かを知りつつも続きは歌わない。もう、悪意を超えてるし。恐怖です。映画はかわいいおばあちゃんなんですけどね。

村には歌手として成功した別所千恵が凱旋してきます。
原作ではセクシーな歌手の設定。顔良し声良し、しかもお色気まで。父親が村に多大な迷惑をかけた上殺人まで犯し、祖父母に預けられて育ちます。芯の強さを感じる女の子です。
映画の仁科明子演じる千恵は清楚なイメージです。

別所春江(渡辺美佐子)と恩田の落とし子の千恵(仁科明子)

私生児の上に殺人犯の娘とされて辛い立場にありましたが、村の友人達との関係は良好です。
原作では亀の湯のお幹は反感を持っています。原作の千恵はセクシー系で露出するのははしたないと思う時代ですから。映画の千恵は清楚ですしね。苦労した感が薄いです。

原作も映画も成功した知恵を温かく迎える歌名雄と里子は心が広いですよね。お父さんを殺した犯人の娘なのに。

私だったら父親を殺した犯人の子どもとは普通には付き合えないかな。自分は良くてもお母さんが可哀想じゃない?
狭い村事情もあるんでしょうね。

以上出揃った女性陣。お察しでしょうか。被害者となるかならざるか、狙われたのはまだうら若い20歳の女の子達でした。

今回も「犬神家の一族」同様、見立て殺人です。

使われるのは手毬唄。見立て殺人の中でも童謡殺人なんて呼ばれる手法です。ハリントン・ヘクストの「だれがコマドリを殺したのか?」(パタリロのクックロビン音頭の元ネタです)クリスティの「ポケットにライ麦を」「そして誰もいなくなった」などが有名です。

被害者を手毬唄の歌詞に見立てるのです。

由良五百子(原ひさ子)

一羽の雀の言うことにゃ
オラが在所の陣屋の殿さん
酒好き狩り好き女好き
女誰が良い枡屋の娘
枡屋器量良しじゃがウワバミ娘
枡で測って漏斗で飲んで
日がな一日酒浸り
それでも足らんとて
返された返された(殺された殺された)
原作もほぼ同じ

この時に被害者を指し示すのが屋号。
名字とは別に屋号を持つ村人達。

仁礼の屋号は秤屋。
由良の屋号は枡屋。
別所の屋号は錠前屋。

殺害動機と犯人は?金田一はこれから起こる殺人事件をも防ごうと手毬唄の歌詞を探すのですが、放庵に行き着きます。放庵は土地の伝承に詳しい人でした。しかし放庵は失踪してしまいます。

放庵の失踪。青池源治郎殺人事件。手毬唄の見立て殺人。

驚愕すべき真実が明かされていきます。

可愛い顔の女優陣の絶叫顔もすごいのですが、所々に笑えるシーンも。

屋号の説明をする亀の湯の女中お幹(林美智子)。うちの屋号はざる屋というお幹に「ぴったりじゃ」と言う磯川警部。

亀の湯で喧嘩を始めた歌名雄と流次、止めに入った磯川ははずみで殴られ、ムカッとしながら仲裁します。結局皆、湯船にドボン。驚くリカは美人ですよねー。どんな顔しても美人。
千恵の悲鳴を聞き慌てて外に出て転ぶ中村巡査(岡本信人)この方も「ありがとう」シリーズに出演していました。そういえば草笛光子も出ていました。我ながら子どもの頃の記憶ってすごいですね。
診察を建前に捜査にやってきた磯川に診察の必要がないとわかるとちょっとつまらなそうな(青池源治郎殺人事件の監察医)権堂先生(大滝秀治)
ほぼずっと酔っ払っている春江の兄、別所辰三(常田富士男)この後「女王蜂」と「病院坂の首縊りの家」に出演。いつもとぼけた役ですね。シリーズ外ですけど、中尾版の「本陣殺人事件」にも出演しています。

青池源治郎の写真を探している金田一は弁士だった源治郎と一緒に仕事をしていた楽士の野呂十兵衛(三木のり平)という人物に行きあたるのですが、金田一に自分の写真を見せて昔話に花を咲かせるとぼけた面白いおっさんでした。金田一シリーズ「犬神家の一族2006」以外、全てに出演しています。「病院坂の首縊りの家」の役名が野呂十次。だけどやっぱり全員別人設定です。

こういった面々が笑わせてくれます。

お笑い芸人が映画出演するのじゃなくて喜劇役者って言うカテゴリーなんですよね。

野津刑事役の辻萬長(上)もシリーズの「犬神家の一族」と「獄門島」に出演していて、毎回刑事役ですが、いつも別人設定です。今回はとんでもないポカをやらかしました。

(下の右側)マネージャーの日下部は小林昭二。ご存知「ウルトラマン」ムラマツ隊長「仮面ライダー」立花藤兵衛。
「犬神家の一族」では梅子の旦那の幸吉役でした。三木のり平同様「犬神家の一族2006」以外シリーズ全作出演しています。

(下の左)立花捜査主任の加藤武はシリーズ皆勤賞です。豊川悦司の「八つ墓村」にも出演しています。ちなみに、「犬神家の一族」では橘署長、「獄門島」「女王蜂」「病院坂の首縊りの家」では等々力警部です。「八つ墓村」では轟警部、漢字が違いますね。


ラストシーンでは磯川警部の心情と金田一の優しさが伝わります。ここは舞台こそ違いますが同じセリフが原作にもあるので外せないシーンなんですね。




シリーズの脚本は市川崑監督、日高真也の名前が上がっているのですが、この映画では久里子亭とあるんです。“くりすてい”と読むのでアガサ・クリスティに因んでの名前でしょう。
この“久里子亭”は市川崑監督のペンネーム。ただし、個人ではなく奥さんであった和田夏十(このお名前自体が市川崑監督との共同名義だそうですが)
や日高真也との合同名義だそうです。


原作との違いはどの作品でも見られますが、特にこの作品は登場人物の名前が違うんですよね。命名者はきっと監督と脚本家なんでしょうが、もしかしたら何か意味があるのかもしれないですね。

映画と小説ではキャラクターの性格にも違いを感じます。先に上げた由良の御隠居は耳の遠い、ボケたかわいいおばあちゃんじゃなくてクワセモノなのかもしれませんし、仁礼の嘉平さん、放庵さん、源治郎、みなそれほど悪い感じがしません。
歌名雄と千恵(小説では千恵子)も大分イメージが違うんです。歌名雄は村の女子の憧れの存在。超モテモテです。原作では泰子とラブラブな感じはありません。落ち着いた感じの青年ですね。
千恵ちゃんはもう説明しましたね。

始まりは金田一が磯川に鬼首村に呼ばれますが、小説ではまるで逆で、金田一が磯川を訪ね、休養をとりたいのでどこか紹介してくれと頼むのです。

また、謎解きの仕方にも違いがあって、映画では犯人が全て語ってくれるんです。動機も方法も。
ところが小説では犯人は語らず、事件に関わった人達が考察するんですね。きっとこういうことだったんじゃないかと。

違いのあることがいいとか悪いとかいったことでもなくて、両方面白いと思いました。

映画も傑作と思いますが、原作も是非お読みいただきたいです。