1485年8月22日、ヨーク朝最後のイングランド王リチャード3世が戦死しました。戦死したイングランド王は過去に3人おり、その最後に戦死した王がリチャード3世です。



私が子供の頃リチャード3世といえばシェイクスピアの戯曲にもなるぐらい悪い人で、背中が曲がっており、血の繋がった幼い甥たちを殺害した悪い王様というイメージがありました。歴史関連の本を読むと必ずそういう風に描かれていたからです。

ところが、そうしたイメージを覆す本がありました。ジョセフィン・テイの『時の娘』です。物語の中でキーとなる肖像画が使用されている表紙。一時期この表紙が城のイラストに替えられた時期があり、私は出版社にメールして元に戻してほしいとお願いしたことがあります。そのせいかどうか現在は前面に使用した表紙となっています。(最初のバージョンは肖像画が表紙の上部にあるデザイン。)

 

この本を読むとシェイクスピアは歴史を捻じ曲げ戯曲をプロバガンダにした作家となりますし、ヘンリー8世は肖像画通りのイメージの女癖の悪い醜い王様です(若い時はイケメンと書かれていますが)そしてリチャード3世は死後何百年も汚名を被った悲劇の王様だったとなります。

この『時の娘』は小説ですが、その小説の中で実際の歴史を解明するという新しいジャンルを作ったのみならず、リチャード3世の名誉回復が大々的に始まるきっかけとなった本です。つまり、リチャード3世の汚名はリチャード3世がヘンリ7世と戦い戦死した(負けた)ことにより、死後名誉を汚されたものだったというのです。(それを行ったのがヘンリー8世。)つまり易姓革命でその前の王の名誉を汚すことで次の王の正統性を主張したという歴史上よくある典型の一つだったということです。

「時の娘」とは、「真実は時の娘」というラテン語の格言からとられているようで、隠されたことも時の流れの中で明かされるというような意味です。日本では戦後のGHQの政策が近年明るみに出るようになり、その焚書本の復活もどんどんなされていますが、リチャード3世もその遺骨から色んなことが判明していますし、発掘調査などは現在の科学的調査で昔はわからなかったこともわかるようになっています。時間を経ることでわからなくなることもありますが、その反対もあるという「時」というものは不思議な存在だということが表された名言であり、それを小説の題名にしたわけです。

歴史を見る目を養うことができ、また読みやすくわかりやすく楽しめる本として、『時の娘』は学校の課題図書にしてほしいし、老若男女多くの人に是非読んでほしい本だと思っています。私はこの本を読んでから、翻訳されたジョセフィン・ティの本を探しまくり読んだほど気に入った作家です。翻訳本は数冊しかありませんが皆面白い本でした。年代的にはアガサ・クリスティとだいたい同時代のミステリー作家ですが、その中でもこの本の存在は突出しているらしく、この本を題材にした小説も生まれており、その翻訳本をパラパラした時に欧米で人気のブッククラブなどでの本書の人気の高さを知りました。

2012年9月にイギリスのリチャード3世の遺骨が駐車場から発見されて話題になったことがありますが、この名誉回復によりリチャード3世の人気が高まっていたことや、元々イギリス人は歴史好きということもあって再埋葬は盛大に行われたようです。この時にはDNA鑑定で血族と判明した人気俳優のベネディクト・カンバーバッチが詩を朗読しています。

 

 

 

 

カンバーバッチの朗読は33分過ぎから↓

 

この時復元された顔の復元も話題になりましたが、有名な絵を元に髪型などが再現されているのが分かります。


私はこの『時の娘』を機に肖像画に興味を持ち、イギリスのナショナル・ポートレイト・ギャラリーにも行きました。

歴史上の人物の肖像画はもともと興味を持っていたのですが、この本を知るまではただ見ていただけだったのが、より存在感が増すことになった転機となった本です。さらに、この本を読むと歴史探求をするにはどのように行えばいいかを学ぶこともでき、しかも面白いという一石三鳥ぐらいの本です。

 

日本では昔の歴代の天皇の御御影というのはあまりないものだと思っていたら、写実的なものがけっこうあるのを知って今ではそこに凄く興味があります。

光格天皇の御御影をコピーですが目の前で見た時、上皇陛下と瓜二つであることに凄く驚かされました。書物やネット上にあるものではこれはわかりませんでした。肖像画はこうした意味でも興味深いものだと思います。遺伝とは隔世で現れるといいますが、こうしたものを見ると巷で繰り返し出てくる明治天皇すり替え説とか馬鹿らしくなります。(それ以前にも馬鹿らしいのですが)。

 

 

 

3年前から、この「真実は時の娘」という言葉は特に意味を持って私の心に期待を抱かせています。絶対にこのままでは終わらない、と。

 

そしてその時、このツィートの本当の意味がわかるのではないか?と。

 

三浦春馬さん最後の主演映画、「天外者」で描かれた五代友厚も長い間、誤解を受けておりそのため幕末・明治の実際の活躍と比較して日陰となっていた偉人でした。しかし近年そうしたことが誤解であったことが資料の発見などで明確となってきており、それが五代友厚プロジェクトにも繋がってこの映画が製作されました。まさに時の娘です。

 

また同じく三浦春馬さん最後に公開の映画「太陽の子」も一般には知られていなかった日本での原爆研究についての事実を元にしていますから、こちらもまさしく時の娘のなせる技となっています。

 

 

 

 

 

 

🌸🐎🐎🐎🐎🐎🐎🐎🐎🐎