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「二人分ってことは、僕も分も、だよね?」

 コクンと頷くあざり。

「………どうしよう」

 あざりに復活する気配は感じられない。珍しく相当落ち込んでいるようだ。

 真冬はカフェの時計で時間を確認する。時刻は現在十一時三十分。雪が降っているせいなのか、それとももともと混雑するお店なのかわからないが、カフェの中はほぼ満席だった。もちろんみんなお弁当ではなく、きちんとカフェの料理を注文し食べている。

「あざり、このあとはどうするつもりだったの?」

 真冬が言う。

「………お弁当を食べるつもりだった」

 あざりはテーブルの上に突っ伏したままそう言った。

「いや、そうじゃなくて、そのあとだよ。雨か雪が降るのはわかってたんでしょ? お弁当を食べたあとは水族館を出るつもりだったの?」

 あざりはむくりと顔だけを真冬に向ける。

「………うん。まあ、ペンギンとか少し見て、それで水族館は出るつもりだった。お弁当時間も含めて二時間くらいを予想してた」

 水族館のパンフレットには、だいたい一時間か一時間半くらいで楽しめると書いてあった。

「あざりは満足したの?」
「………満足した。クラゲも見れたし、マンボウも見れたし、クマノミも可愛かった」

 真冬は自分の隣で控えめにきゃーきゃーはしゃいでいたあざりの姿を思い出す。あの楽しそうだったあざりが今は見る影もない。

「雪降っているけど、ペンギンとかアザラシとか見ていく?」

 真冬は淡々と質問を続ける。

「……いい。なんかそんな気分じゃない」

 あざりの目には少し涙がたまっていた。そんなあざりの訴えかけるような視線を受けて、真冬は頭をかいた。

 なんとかしろ、ということかな? 

 真冬は考える。

 とりあえずはあざり手作りの、とは言ってもおそらく半分以上があざりのお母さんの手作りお弁当を食べて、あざりをこの深い悲しみから救ってあげなければならない、と真冬は思う。それが今自分に課せられている最大の試練であり、男の見せ所でもあった。

 真冬はスマートフォンでお弁当の食べられる場所を検索する。
 あざりはそんな真冬の様子をちらちらと見ている。

 しかし残念なことにお弁当の食べられそうな場所は近くでは見つからなかった。無理をすれば駅前の公園で食べられないこともないのかもしれないけど、今日は雪が降っている。
 自分の家かあざりの家に帰るのでは、あざりの失敗が家族にバレてしまう。お母さんっ子のあざりはそんなことは絶対にいやなはずなので、それも却下だ。

 そこでふと、真冬はある場所のことを思い出した。

 そこは前から真冬が行ってみたいと思っていたところだった。そこなら、お弁当が食べられる。それに、あざりは自分の行きたい場所として水族館を選び、そこに真冬を連れてきてくれた。
 なら、今度は自分の行きたい場所にあざりを僕が連れていくというのはなんだかバランスが取れていてすごくいいアイデアのような気がする。

 そう思って真冬は笑った。

「………何笑ってるの?」

 少し不満そうな声であざりが言う。あざりが凹んでいるのを見て、真冬が面白がっていると思われたみたいだ。

「ねえ、あざり。少しだけお昼我慢できる?」

 真冬が言う。

「できるけど、なんで?」

 真冬はコートのポケットから青色のハンカチを取り出すと、それであざりに手渡した。

「どうぞ」
「あ、ありがとう」

 あざりはそれで涙をぬぐった。

 真冬は荷物を持って立ち上がる。

「どうしたの?」

 あざりが聞く。

「場所を変えよう。あざり、黙って僕のあとをついてきてよ」

 そう言って真冬が片手を伸ばすと、最初はわけがわからないという顔をしてたあざりだったが、だんだんとその表情は輝きを取り戻していき、次の瞬間、真冬の手をぎゅっと握って、あざりはにっこりと笑ってくれた。