「条件?それってどういうことですか?」
照子の言葉に美月は笑う。
「僕はね、ここでこの森の森番をしているものなんだ。だから僕が鍵を使って門を開ければ確かに君はこの道を通って森の奥に行くことができる。でも、それって不公平じゃないかな?」
「不公平?」
照子はそう言って首を傾げた。
「だってそうでしょ?考えてみてよ。君は森の奥に進むことで君の探している人に出会い、上手くすればその人を街に連れて帰ることもできるかもしれない。だからこれは君にとってとてもメリットのある話なんだ。でも、僕は違う。僕は君のために門を開けたとしても、何の見返りもない。それって公平じゃないでしょ?だから僕にも何か報酬がなければ門は開けられないってことさ」
美月はそこで言葉を区切って照子の反応を見た。
「報酬ですか?でも、そうは言っても私お金は持ってませんし……」
残念なことに照子の所持金はゼロだった。だから報酬として美月にお金を払うことはできない。
「お金?ふふ。そんなものいらないよ。お金なんて森じゃ何の役にも立たない。お金は街でしか流通していない通貨だからね。そんなものはいらないよ。僕が欲しいものはお金じゃない。もっと別のものさ」
そう言って美月はもう一度照子の体を見つめた。
「お金以外の報酬……?それって一体なんですか?」
照子はお金に変わる報酬とはどんなものか少しだけ考えてみたが、パッと思いつくものは特に何もなかった。
「そうだな。例えば『君の体』とかどうかな?」
そんな照子に美月はそんなとんでもない報酬を要求した。
「私の体、ですか?そんなものが報酬になるんですか?」
しかし照子には美月の言っている意味がよく理解できていないようで、とぼけた表情のまま、とぼけたことを美月に聞いている。
「ウンウン。なるよ。全然なる。むしろお金なんかよりもずっと嬉しいね」
そういう美月は本当に嬉しそうな顔をしていた。
「私の体を美月にあげれば、美月はこの門の鍵を開けてくれるんですね?」
「うん。いいよ。君がその条件を飲んでくれるんならね」
照子は人差し指を自分の顎にくっつけると、遥か上空の灰色の空を見上げて、小夜のこと、そしてあの人のことを頭の中で考える。そうやってしばらく悩んだ末、決心した照子は美月の条件を飲むことにした。
「わかりました。その条件を受けます」
照子がそう言うと、美月はニヤッと笑いすごく喜んだ。
「本当!?やったね!こんな場所に飛ばされてさ、退屈してたんだけど、いやー、こんな幸運が僕に訪れるとは思ってもみなかったよ。運命っていうのもなかなか捨てたものじゃないね」
そう言いながら美月はまるで品定めでもするように照子の体をもう一度上から下まで舐め回すように見渡した。
『いやらしいな。これだから男の子は嫌なんだよ』
すると照子の心を代弁するように魚がそんなことをぽつりと呟いた。
「ただし、私からも一つだけ条件があります」
次の瞬間、そう言って照子は喜ぶ美月の動きを止める。
「君から僕に条件?それって何?」
照子はじっと美月の目を見ながら自分の条件を話し始める。
「私が美月に体をあげるのは、私の目的を果たしてからというのが条件です。それを了解してもらわないとこの約束は受けられません」
照子の目的を果たす前に美月に体をあげてしまっては、照子の目的が果たせなくなってしまう。だからこれは照子からの条件というよりは、美月の出した条件を受けるための最低限の申し出のようなものだった。
「なるほどね。君が目的を果たす前に僕が君の体をもらっちゃったら、君が目的を果たせなくなるもんね。確かにそれは大事な問題だよ」
ウンウンと頷く美月。
「どうです?了解してくれますか?」
照子はそんな美月にそう聞いた。
「いいよ。わかった。了解しよう。それくらいは我慢できそうだしね」
すると美月はあっさりとその条件を受け入れた。そしてそう言ったあとにまた美月は照子の体をジロジロと見た。
「その代わり、ぼくのほうからもう一つ条件を付け加えさせてもらう」
「もう一つですか?」
「何、難しいことじゃない。これもお互いの条件を成立させるために必要なことだよ。つまり簡単に言うと僕を君の友達を探す旅に同行させてもらえないか、ということさ」
「美月が私についてくるってことですか?」
「そうだよ。だってそうしないと、君が森の中で友達を見つけたあとに僕との約束をすっぽかしてその友達と一緒に街に帰ってしまうかもしれないでしょ?それじゃ僕は困るわけだね。だから僕が君の旅に同行すれば、その問題を解決することもできるってことさ」
美月はそう言って照子の顔をチラッと見た。
「なるほど。言われてみれば確かにそうですね」
『チィ、気づきやがったか』
美月にそう言われて照子は納得し、魚は舌打ちをした。
「でしょ?どう?僕の同行を認めてくれるかな?」
「えっと、ちょっと待ってくださいね」
そう言って照子は少しだけ考えるふりをした。
なぜそんなことをしたかというと魚の意見を聞きたかったからだ。しかし、しばらく待っても魚は何の発言もしなかった。それはつまり、魚がこの条件を認めているということだ。否定の発言をしないということは、魚が美月の提案を正式なものとして認めているとみなされる。魚が認めているのなら照子にも異論はなかった。
「わかりました。その条件で引き受けます」
「よし。決まりだね。じゃあ早速鍵を開けるね」
美月は出会った頃が嘘のように嬉々として門の鍵穴に自分の持っている鍵を入れると、それをゆっくりとした速度で右に回した。するとガチャリという音がして鍵が開き、ずっと開かなかった鉄格子の門がギィーという音とともに左右に開いていく。
「さあ、照子。こちら側においで」
美月が手招きで照子を呼んだ。
「はい。わかりました」
その声に引き寄せされるようにして、照子は開いた門の間からあちら側へと移動していった。