「それだけ?」
「それだけです」
ぼくは思わず笑いそうになるのをぐっとこらえる。帽子の上にいる鳥もどうやら同じように笑いをこらえているようだった。
「あ、今、笑いましたね」
今度は少し怒った顔をして女の子がそう言った。
どうやら我慢の甲斐なくぼくの笑みは外に溢れてしまっていたようだ。
「ごめん。でも、それだけで猫を嫌いなったら、それは猫がかわいそうだよ」
ぼくは言う。
「いいんです。だいたい皆さん、この話をすると笑いますから」
そう言ってそっぽを向く女の子。
でも、その間も女の子の震えはおさまっていない。理由はともかくこの子の猫恐怖症という病はかなり重病のようだ。
ぼくはそっと、何も言わずに両手を伸ばし、女の子の膝の上にいる青猫を掴み上げた。
「あ」
女の子は驚く。
ぼくはそのまま浮気者の青猫を自分の膝の上に移動させた。
「これでもう大丈夫だよね」
ぼくは言う。
少し間、ポカンとしていた女の子は急に笑顔になると『はい。もう大丈夫です』と嬉しそうな声でぼくに言った。
その笑顔を見て『猫好きの小夜とは正反対の子だな』とぼくは思う。
ぼくはそのままベンチから立ち上がった。
すると女の子は驚いたような顔をしたあとで、すぐに寂しそうな顔をする。
「猫が見つかったから、もう帰っちゃうんですか?」
女の子はぼくにそう聞いた。
「うん。そうだよ」
ぼくは答える。
「そうですか。そうですよね」
女の子は何かを飲み込むようにそう言ってから、しばらくして太陽のような顔に戻った。
まだ出会ってほんの少しだけど、ぼくはこの女の子のことが気に入っていた。
だから、このままこの場所でこの子とおしゃべりをしていても良かったんだけど、それができない理由がぼくにはあった。
それは青猫がこの子をじっと見ていたことが原因だ。
「あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」
女の子はぼくに名前を聞いた。
「あざり」
ぼくは自分の名前を女の子に教える。
「あざりさん。いいお名前ですね」
女の子は言う。
「私の名前は花っていいます。雨森花です」
花はぼくに名前を教えてくれる。
「花。いい名前だね」
ぼくは言う。
「そうですか?ありふれてませんか?」
花は言う。どうやら花は自分の名前があまり好きではないようだった。
「そんなことはないよ。すごくいい名前だよ」
ぼくは笑う。
すると花も笑った。
「花」
ぼくは花の名前を呼ぶ。
「なんですか?あざりさん」
花も笑顔で答えてくれた。
「さようなら」
「え?」
ぼくは自分の手を花の顔の前に移動させる。そしてそのまま花の額に手を押し当てて、ありったけの『力』を込めた。
ぼくの手のひらから緑色の揺らめきがまるで炎のような形状を伴って放出される。
そしてそれは当たり前のようにすぐ前にある花の頭を撃ち抜いた。