「わ、わかったわよ。とりあえず、あざりさんを捕まえるのはいったん保留するから、その顔はやめなさいよね」
「本当?」
とアザリが言う。
「本当よ!」
と小夜は怒鳴った。
「怖いよ、歩。助けて」
あざりは歩を盾にする。
「小夜。あざりお姉ちゃんをいじめちゃダメだよ」
変なところで正義感あふれる歩はあざりをかばう。その後ろで泣き真似をするあざり。小夜のイライラは爆発寸前だった。
そんな小夜の顔を盗み見てあざりがにやける。
この、見てなさいよ。
絶対、正体を暴いて捕まえてやるんだから、と小夜は心に誓った。
「じゃあ、二人とも仲直りだね」
歩は笑顔に戻ってそう言った。
しかし小夜は、仲直り?元々仲良くもないのに、とその言葉に否定的な意見を持った。
「歩。ぼくたちはまだ仲良くなってないから、その表現は間違いじゃないかな?」
ポンポンと歩の頭を優しく触りながらあざりが小夜の思ったことを口にした。
「ねえ?君もそう思うでしょ?」
あざりは小夜を見てニヤッと笑う。
悔しいがその通りだったので、小夜は何も文句を言うことができなかった。
「そうなの?ぼくたちとおざりお姉ちゃんは仲良しじゃないの?」
歩はあざりにそう聞いた。
「それは違うぞ、歩。ぼくと歩は仲良しだ。仲良くないのは小夜とぼくだけさ」
「小夜ー、そうなの?」
歩は小夜に意見を求める。
その通りよ、と言いたいところだが、それではまた歩が悲しい顔に戻ってしまう。それだけは避けなければならない。
なのですごく癪だが、小夜は歩に嘘をつくことにした。
「そんなことないわ。私も歩と同じようにあざりさんのことが大好きなのよ。ね、あざりさん」
小夜は社交界にデビューしたときのようなとびっきりの笑顔であざりに笑いかけた。
「ふふ、まあ、君がそういうのなら、そういうことにしておこうかな」
あざりは不敵な笑い方をする。
その笑顔では、絶対に『あの社会』の中で生き残ることはできないだろうな、と小夜は思った。