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 それもそのはずで、小夜がこんな風に夜中に歩の病室を訪れることは、子供の頃からよくあることだった。

 小夜は黙ったまま、歩に近づいて、そして、そのまま歩の体にぎゅっと抱きついて、泣いた。

 小夜がこうして安心して泣ける場所は世界で唯一この場所だけだった。

 小夜はいつもこうして、泣くために歩の病室を訪れていた。太陽が空にある時間に歩の病室を訪ねるのは、そのお礼のようなものだった。

 朝と夜。

 そうやって、まるで太陽と月のように、交互に違う顔を小夜は歩に見せていた。

 小夜の体は震えている。

 歩はそっと小夜の背中に片手を回し、もう片方の手で頭を撫でた。

 小夜が泣き止むまで、歩は何時間でもそうしてくれる。

 しばらくして、ようやく小夜が泣き止んだ。

 それを確認して歩は小夜に優しい声をかける。

「この間もらった本、読んだよ。結構面白かった」

「うん」

「だけど、小夜の本はジャンルが偏っているよね。僕はもっと違う種類の本も読みたいな」

「うん」

「今度の差し入れは、推理小説がいいな。お願いできる?」

「うん」

 小夜がもそもそと動き出す。

「どうしたの?」

「寒いの。ベットの中、入ってもいい?」

 そう言いながら小夜はすでに歩のベットの中に体を半分以上潜り込ませている。

革靴がぱたぱたと床に落ちて、小夜は纏っていた黒いコートを床の上に脱ぎ捨てた。小夜はその下に桜色のパジャマを着ている。

 家から逃げ出すとき、慌ててコートを一枚つかんだだけの小夜は、寝る直前の格好のままだった。

「このベットに二人は狭いよ」

 歩は文句を言う。

 それは昔から変わらない。

 子供の頃から、歩はいつもベットに入ろうとする小夜に文句を言っていた。

「そんなことない。詰めればちゃんと入れるよ」

 小夜は歩はベットの端に押しのけるようにして、体を丸めて、歩の腕と胸にその顔を埋めた。

「あったかいね」

 小夜は素直な感想を言う。

「もう、春だからね」

 歩はそんな言葉を小夜に返した。

「うん。そうだね」

 ベットで横になった小夜は急激な睡魔に襲われる。

 眠くて眠くてしょうがない。

「小夜、もう寝るの?」

 歩の声。

「うん」

 返事をする小夜。

 小夜はそのまま意識を失った。

 体の震えも、いつの間にかなくなっている。

 それを確認したあとで、歩はそっと目を閉じて、小夜の横で眠りについた。

 そして朝になり、歩が目を覚ましたときには、もう小夜の姿はそこにはなかった。

 きっと、一度家に帰り、そして今頃は何事もなかったかのような顔をして、学院に通学している最中なのだろう。

 歩は窓の外に目を向ける。

 空は青く、どこまでも晴天が続いている。