プロローグ
赤い糸は、いつだって私たちをつないでる。
ずっと一緒。どんな困難が訪れても、私たちは決して離れることはない。今も確かにこの糸は私たちをつないでくれている。
それだけが私のすべて。それ以外は全部余計な荷物でしかない。
花は懸命に糸をたどっていく。その先に小夜がいることを知っているからだ。
今の花に怖いものなんて何もなかった。ただ一つ花が恐れていたのは糸が切れてしまうことだけ。小夜を見失ってしまうことだけ。ただ、それだけが怖かった。
『待っててね、小夜。今、会いに行くよ』
花の意識はそこで一旦途切れる。そして次に意識を取り戻したとき、花は森の中で目を覚ました。
開演
空は曇っている。今にも雪が降り出しそうだ。吐く息は白く、空気は凍えるように冷たい。今は冬だ。私と小夜が初めて会った日も、こんな寒い冬の日だった。
そんなことを雨森花は思い出す。帝都の一部とは到底思えないくらい深くて暗い森の中を花は一人で歩いている。学院指定の制服の上にオレンジ色のコートを羽織り、首には白いフカフカのマフラーを巻いている。それは花が普段学院に通うときに着る服装だった。でも一点だけいつもと違う箇所がある。それは鞄の代わりに大きなリュックサックを背中に背負っていることだ。その中には二、三日の旅行に行く時に準備する荷物と同じものを詰め込んである。
「えっと、本当にこの道で合ってるのかな?」
不安になって独り言を喋る花。手に持っているのはもうシワシワになってしまった小さな白いメモ用紙。それは手書きの地図。目的にまで花を導いてくれるコンパスのようなもの。
私、一体何してんだろ?不意にそんな疑問に襲われる。自分のやっている行為が自分でもよくわからなくなる。何度か足を止め、自分の家に引き返そうかとも考えた。でも、やっぱりそれはできない。どうしても私は小夜に会いたい。会って話がしたい。