私は青色の夢を見る。
私はずっと憧れた青色の中に、ゆっくりと落ちていく。
たった一人で落ちていく。
視界が霞む。涙で前が全然見えない。私は泣いていた。ずっと、ずっと泣いていた。悲しくて、辛くて、寂しくて、涙が全然止まらなかった。
せっかくの青色が台無しだ。
滲んだ視界の中に赤色が紛れ込む。その色を怖がって、青色の世界が私の前で震えてる。私を怖がってる?だからそんなに怯えているの?
ああ、体がとっても冷たいよ。
誰か私を温めてくれないかな?私を抱きしめてくれないかな?そんなことを考えてみる。
意識が混濁する。もう何も考えられなくなる。
お願いです。
誰か私を助けてください。誰でもいい。誰でもいいから、私をこの地獄から救い出してください。とてつもなく大きな声でそう叫びたかったけど、現実にはその思いは声にならなかった。私はもう喋る力さえ失っているのだ。
加速。
世界が加速していく。
ああ、もうダメだ。もう何もかもが手遅れになる。
私に残された選択肢は一つしかない。解決策は一つしかない。でもそれを実行する力が私にはない。そんな勇気は私の中をくまなく探してもきっと見つからない。
臆病者の私。
そんな私は、きっと一生一人っきり。きっと一生寂しいままだ。
わずかな熱。伸縮して悲鳴をあげる金属の音。戸惑い。これは何?これは意思なの?そんなこと初めから分かっている。
これは拒否。私を嫌いな人たちが示す拒否のシグナル。窓の外は赤色。赤は危険な色だ。
お願いです。
誰でもいいから私を助けてください。私をこの世界から排除してください。私はもう何も望みません。
生きることも、死ぬことも望みません。
全てをあなたに託します。
だから私の声を聞いてください。私の姿を見つけてください。
私を、私を、力一杯抱きしめてください。
急に体に穏やかな優しさを感じた。世界が一変する。さっきまでの嵐のような拒否反応も、ずっと慣れ親しんだ夜の世界もなくなって、代わりに信じられないくらい優しい何かが私の体を包み込む。
ああ、これは、もしかして愛?
ずっと私の探していたものがここにはこんなにも溢れてる。すごい。間違ってなかった。私の思いは、願いは勘違いじゃなかったんだ。憧れた色の中に私はいる。
決心が揺らぐ。
どうしよう?こんなに綺麗なもの見ちゃった。
罪悪感すら感じる奇跡に、私の心は揺さぶられ、生への執着が蘇る。胸の奥が痛い。喉の奥が熱い。手足は震えて痙攣する。
ドン。
大きな音。何の音?
あれ?おかしいな?体が動かない。目の前が真っ暗になる。これは夜?永遠の夜の中に私の意識は連れ戻される。それとも、今までの景色が夢で、今この瞬間に私はいつもの場所で目を覚ましてしまったの?
わからない。でも、そうだったら悲しい。
体が重い。なんでこんなに苦しいの?わからない。わからないよ。
お願いです。お願いですから、誰かこの苦しみから私を救ってください。
誰も答えるはずのない私の孤独。それは祈りのようなもの。でも、その時、信じられない奇跡が起こる。
『、、、誰か、そこにいるの?』
声が聞こえる。誰の声?あなたは何月の人?
今日は何かの試験の日だっけ?
『ねえ、そこに誰かいるんでしょ?俺の声が聞こえるなら、返事をしてくれないかな?』
返事?どうしてそんなこと聞くの?そんな自由が私にあるわけないじゃない。そんなこと、ここにいる人ならみんな知っているでしょ?意地悪な人。
『ねえ、どうして返事をしてくれないの?俺の声が聞こえないの?それとも俺のことを疑っているの?』
優しい声。不思議な声。声ってこんなに柔らかいものだっけ?よく思い出せない。でも、なんかとっても気持ちいい。なんでだろう?この人は誰?
「あなたは誰ですか?」
私はそう心の中で声を出す。現実の体は糸の切れた人形のように床にへばりつき、もう私の言うことなんで全然聞いてくれなかった。
『俺?俺は真夜中の魔法使い。君を助けに来たんだよ」
小さな手が私の視界の中に現れた。
ああ、なんていうことでしょう。これは奇跡です。奇跡が今、私の目の前で起こりました。
私は魔法使いの手を取ります。
嘘みたいに体が軽くなりました。痛みもなく、涙もない。
『君の名前を教えてくれないかな?』
魔法使いは私に名前を尋ねます。私は恥ずかしくて一瞬答えに窮しましたが、その手の温もりが私にあるはずのない勇気を与えてくれました。
「花。私の名前は雨森花です」
『花、、。雨森花か。とっても素敵な名前だね』
魔法使いは笑います。確かにそれは魔法でした。私は魔法使いの魔法にかかって、新しい檻に閉じ込められてしまったのかもしれません。でも全然嫌じゃないです。こう私が思うのも、魔法のせいなのかな?
世界に気持ちの良い風が吹き、その風が暗い闇を吹き飛ばします。私たちは青色の中にいる。真下には真っ白な永遠の大地。
気持ちいい。加速して、自由落下する命。これはいい。このまま、ずっとこうして青色の中を飛び続けていたいな。
『気をつけて。あんまりはしゃぐと危ないよ』
「ごめんなさい。あんまり嬉しかったものだから、つい、、」
魔法使いは私の体をしっかりと抱きとめて、私は風に飛ばされないようにしてくれた。
暖かい。これが本当の熱。本当の命。
天辺には光り輝く太陽だが見える。目が潰れてしまうのではないかと思うほどの光。実際にその光を見続けたら、私の目は色を失ってしまうだろう。眩い白色で塗りつぶされてしまうのだ。
『花は一人じゃない』
魔法使いの声。私は一人じゃない。
『だから何も心配する必要はないんだよ』
私は一人じゃない。何も心配する必要はない。
「魔法使いさん」
『何だい?花』
「私は、これからどうすればいいんですか?」
素朴な疑問。
『花の好きなようにすればいいんだよ。花はこれからどうしたいの?どこで何をして生きていきたいの?』
私のしたいこと。私の夢。私の今、一番大切なこと。
「あなたと、一緒にいたいです」
顔が真っ赤になるくらいに恥ずかしい。でもそれを言うことができた。きっとこの青色と魔法のせいだ。
『いいよ。わかった。なら俺の所においで。そこで、これからずっと一緒に暮らしていこう』
「本当に?」
私は問いかける。もう、何が何だかよく理解できない。頭では何も解決しないこと。でも残念なことに私には心がない。だから私にはこの問題を解くことが一生できないのだ。
『うん。本当だよ。このまま一緒に俺の家まで飛んで行こう。二人ならあっという間だよ』
私は力一杯頷いた。涙が出る。何度でも溢れてくる。
私たちは雲の中に落ちていく。
真っ暗な世界。さようなら。
青色の世界。こんにちは。
私はこれから、この世界の中で生きていきます。私はこれから、この人と一緒に暮らしていきます。
透明な風の中で私は決意する。
私はこの人と一緒に生きること選んだ。