るいの部屋 | amesekaiのブログ

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るいは広くないと言っていなが部屋は普通に広かった。さっき通ってきた入り口と同じスペースを丸々一室個室として使用できるようだ。これはかなり贅沢というか、もしかしたら俺の部屋より利便性は高いかもしれない。もちろん所有しているわけではなく、時間単位で借りているだけなのだが、それなら俺だって同じようなものだ。俺の住んでいるアパートは国が管理している公共施設なので、その違いなのだろうか?

安くて人気という話だったが、実際の値段が気になるところだ。部屋の隅には備え付けの二段ベットが置いてある。そのうち下のベットの上には脱ぎ捨てられた衣類が何着か乱雑に放置され、しかも見てはいけないような類いのものまでチラチラ目に入った。

ベットの前には茶色のトランクが一つと同じ色のリュックが一つ。その横の床の上にはスニーカーとブーツが行儀よく並んで置いてあった。部屋の壁にくっついているテーブルの上には部屋と同じ色をした真っ白なノートパソコンが一つあり、開いたままの画面の中ではスクリーンセーバーが起動している。テーブルには同じ色の椅子が二つセットになって置いてある。そのの横の壁際にはこちらも部屋と同じ色をした小さめのツードアの冷蔵庫。その上には小型の電子レンジが載っていた。

部屋にあるものはそれだけだ。ほとんどのものは初めから部屋に設置されているものばかり。衣類はすべてトランクの中に詰め込める量だし、いざとなればすぐにでも部屋を退去、移動できるよう荷物は最小限にとどめているのだろう。

冷蔵庫からコーラを二本取り出したるいはドアの前で立ち尽くしている俺に笑顔を向ける。

すると数秒後、ようやく俺が目のやり場に困っていることに気がついたのか、るいはベットの上に視線を向けて顔を赤くすると『す、すみません!ちょっと、待ってください!』と言い、コーラをテーブルに置いてから急いで脱ぎっぱなしになっていた衣服を片付け始めた。

るいは一段目にある衣服をまとめて持つとそれを両手いっぱいに抱えこむ。そのまま二段ベットの階段に足をかけ器用に二段目まで上るとるいの上半身だけがベットの影に隠れて俺から見えなくなった。るいの白くて細い、綺麗な足が片方だけ空中をフラフラと舞っている。見ないようにとは思っても、どうしてもそこに視線が向いてしまう。なんというか、そんな自分が少しだけ情けなく感じる。

るいの足はとても綺麗だったけど、やはり健康的というよりは病的な印象を受ける。ちょっと痩せすぎていると思うが、それは俺が男だからだろうか?女性の持つ美的な感覚は俺にはわからないけど、それを差し引いてもるいの体は細すぎると感じた。

「いい部屋だね、ここ」

俺は思考を切り替えたくてどうでもいい話をるいに振った。

「そうなんですよ。あんなに安い値段でこんないい環境で暮らせるなんて、本当、神様に感謝ですよね」

るいは二段ベットの上から俺と会話をしている。俺から見るとるいの左足が言葉をしゃべっているように見える。

「俺もここに引っ越したいくらいだよ。でも、こんなにいい物件ならもう人でいっぱいになっちゃてるのかな?まあ、ここには空いてる部屋もあったみたいだけど、、」

何気なく言った言葉だったけど、いくら待ってもるいから返事か返ってこなかった。るいの左足も元気をなくしたように動かなくなり、今はきちんと両方とも階段に足をつけている。

「どうかしたの?」

「、、、いえ、その、ここに来る人は、やっぱりその、ちょっと普通じゃないっていうか、ワケありの人が多いっていうか、、、」

モグラの住処になっている、ということなのかな?まあ、確かにこれだけ環境がきちんと整っていれば、モグラたちはここに住み着く。それは一見良いことのように思えるが実は違う。これはていのいい牢獄のようなものだ。自分から進んで入る刑務所のような場所。国はその存在を拒否したモグラたちを無視したが、その反乱は許さなかった。だから適当な居場所を企業に用意させ、そこにモグラたちを誘導していった。初めは通常の利用客も多かっただろうが、こうなると自然と住み分け、のような現象が起こってくる。さっき皆だかりの帝国駅の風景のように、、。

それは、俺も変わらない。

両親を亡くし、国に居場所を用意された俺はいわば牢獄の中の囚人と同じだった。管理され、自我を認められず、自由を奪われた人間たち。地下に住んでいないというだけで、俺もつばさも何も変わらない。今住んでいるアパートから逃げ出せば、俺もその日からモグラの一員になるのだから。

俺はその束縛に耐えることを選び、るいはその束縛を嫌っただけ。その違いがあるだけだ。

なら俺はどうして檻から出ようとしないのか?

それは怖いからか?それとも、やっぱり俺は医者になりたいという夢を捨てられないからだろうか?いや、違う。

それを決めるのが面倒だからだ。悩むのが、苦しむのが嫌だからだ。選択すること自体を拒否している。それはつまり現状を受け入れるということに他ならない。

そんな生き方をしている俺はもしかしたら人間ではないのかもしれない。いつの間にか人間ではない何かになってしまっているのかもしれない。

「ごめん。変なこと聞いちゃった」

俺は素直にるいに謝った。その行動は少しでも自分がまだ人間であるということを自分自身に証明したかったからかもしれない。

「、、気にしないでください。でも、その、久しぶりに思い出したっていうか、なんかあんまりそういうこと考えることがなかったから、、ちょっとだけ驚いちゃいました」

衣類の整理が終わったのか、そう言いながらるいはゆっくりとした動作で階段を下り始める。

「驚いたって、何を?」

「ここに住みたいって、思う人がいるんだなって、、」

るいは二段ベットの階段から床に降りると、元気よくこちらを振り返り、俺の顔をしっかりと見つめながら笑顔でそう呟いた。