ルール その二 | amesekaiのブログ

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「うん。まず昨日も言ったことだけど、花の存在は他の人に知られるのはまずいんだ。だから、なるべく花は、この部屋の外に出ないこと。これ、約束できる?」

「わかりました。勝手に出歩いたりしません」

「そのかわり、部屋の中では静かにしているのなら何をしていてもいいよ。欲しいものがあったら、さっきみたいに俺が買ってくる。遠慮しないで言ってくれいいからね」

コクンと花は頷いた。その態度は真剣そのものだった。

「次に連絡手段なんだけど、花はスマートフォンは持ってるの?」

「いえ、持っていません」

これは見当がついていた。子供だからという理由ではなく、もし所有していたら、そこから花の居場所がバレる恐れがあるからだ。逃走している人間がフォマートフォンを持ち歩くわけがない。逆探知されるのがオチだ。

「じゃあ、俺の番号を覚えて。紙に書いちゃダメだよ。頭の中で暗記するんだ」

俺は自分の十一桁の電話番号を言葉にして花に伝える。花はそれを一回で覚えた。

「部屋の中の電話はそこ。かかってきても出ちゃダメだよ。俺に連絡するときだけ使っていい。別に緊急じゃなくても、暇ならかけてくれて構わない。出られないことも多いけど、授業中以外ならなるべく頑張って電話に出るようにするからさ」

「わかりました」

「少し窮屈な暮らしになるけど、我慢できる?」

「はい」

その声には信念というか、子供らしくない何かとても深い決意のようなものが含まれていた。それがどんな思いからくるものなのかはわからないが、花には何か明確な目的があるのだろう。それを実現するまではどんな辛い現実でも受け入れる、乗り越えてみせる、といったような気持ちを感じる。

「それと花、お金持ってないよね。花はお小遣いは、いくらくらい欲しいの?」

「お小遣いはいりません」

花はやけにきっぱりと断ったが、そういうわけにはいかないだろう。もちろん自由に使えるお金はほとんどないが、それでも花にお金を一銭も持たせないという選択はない。

コンビニで支払いをした時、財布の中の五千円を崩したから残り三千円くらいか。自分で言うのもなんだが情けない金額だ。まあ、国に養ってもらっている身分だからこれでも贅沢といえば贅沢なんだけど、、。

「具体的な金額は後で決めるとして、とりあえず千円置いていくから、取っておいて」

「でも、、」

「何があるかわからないし、緊急用だと思ってくれればいいよ。俺もその方が安心できるしね」

「そうですか、、夜雨がそう言うなら、、」

花は渋々、俺から千円札を受け取った。花がそれをピンク色の小さな財布に中にしまうのを見届けてから、俺は話を再開する。時計を見ると、もうそろそろ学校に出かけるのにちょうどいい頃合だった。今朝はかなり時間に余裕があったが、朝食を作ったり、コンビニに買い物に行ったりしたので、いつの間にかそれなりに時間は経過していたようだ。

「まあ、大体こんなものかな?花はどう?何か聞いておきたいことや提案したいこととかある?」

「私からはありません。こうして部屋に泊めてもらっているだけで満足です」

それは本心だろう。花が見た目ほど子供ではないことはよくわかった。だが、だからこそ、気になることがある。

「じゃあ、最後に俺からもう一つ。これはルールってわけじゃなくて、単純な疑問なんだけど、どうしても聞いておきたいことがある。花は、どうしてそんなに俺のことを信用してくれるの?」

自分で質問しておいてなんだが、花はきっと答えてはくれないだろうと俺は考えていた。下を向いて黙り込んでしまうだろうと予想していたのだ。だが花は意外にも俺の顔を正面から見つめ返してきた。

強く美しい花の瞳がうっすらと潤んでいることまで理解できる。

やがて花は、小さな声で『それは夜雨が夜雨だから、です」と呟いた。

「俺が、俺だから?」

「はい」

花が俺のことを知っているのは名前や部屋の場所を知っていたことからもわかる。どこかで下調べをしてきたのだろう。でも、それだけで俺を信用できるものだろうか?俺はそんなに真っ当な経歴を持っているわけではない。そりゃ、一応頑張って勉強しているし、まあ、学校も進学校ではある。でも、ただそれだけだ。

そうではなく、花は俺の力に期待をしているのではないだろうか?

花は俺の力についてどれくらい見当がついているのだろう?花が信用しているのは俺の人格や能力ではなくて、その力の存在の筈だ。

しかしそうなると、さっきの花の言葉、俺が俺だから、という表現は何か俺の考えと違和感がある。それではまるで花が本当に俺に会う前から俺のことを知っていたかのようだ。

もちろんそんなことはありえない。ありえないのだが、なぜかそんな気がしない。

なぜ花は俺を信用してくれるのか?

その質問は裏返すとなぜ俺はこんなにも花を信用しているのか?という問題につながる。

俺は何でこんなに花を信用しているのか?

わからない。一体なぜなんだろう?

俺は何を諦め、何を受け入れたのだろう?それを俺に決意させた何かを俺は見失っているのか?そしてそれを花は知っている?

覚えている、ということか?

レストランの時と同じだ。あの時、花は何か思い出しましたか?と俺に聞いた。それはつまり、俺が何かを忘れているということだ。それはつまり、、。

「もしかして、俺と花って、昔、どこかで会ったことがあるの?」

花がハッとした表情をして素早く顔を上げた。その表情は昨日の空のように曇っていて、今にも雨が降り出しそうな天気模様だった。花は何かを俺に告げようとして口を微かに動かしたが、結局それを言葉にすることはなかった。