私が空を飛ぶ力で手に入れたことは自由。
では、空を飛ぶことで私が失ったものはなにか?
白い街を遥か上空から見下ろしながら、私はそんなことを考えていた。
それは聡明さだろうか?
あるいは、歩くことを忘れた私は怠け者になってしまったのかもしれない。
自分の居場所を守る懸命さ。
空を見上げることで感じる喪失感。自己の小ささと空の大きさを比較する愚かさ。
それは反省する力。
際限のない人の欲望に対する枷。
風が気持ちい。
速度を上げれば上げるホロほど、私の心は高揚した。
私は空を飛びたかった。ずっと子供の頃からそう思っていた。
なぜだろう?
私はどうして、空に憧れたんだろう?
私は、一人になりたかった。
私は、自由になりたかった。
空は広く、白くて大きな雲の中に隠れてしまえば、もう誰にも私を見つけられないと思った。
それが理由。
本当に?本当にそれだけなの?
『あ、あ、、えー、聞こえますか?』
「聞こえてる」
『えー、そちらの様子はどうですか?』
「何もない。いつも通りの綺麗な空だよ」
空には何もない。それを私は知っている。あの子が私に教えてくれたからだ。
でも、あの子は実際に空を飛んだことはない。
空を見上げ、空を頭の中で構築し、再現する。それだけの力があの子にはあるが、それで空を所有したつもりに、あの子はなっていた。
でも、それは間違いだ。
私はそれを確信する。
空を飛んで見ればわかる。
空には何かがある。
何もないのはあの子の方。あの子だけじゃない。私もそう。人類全てがそうかもしれない。
「上昇する」
『え?あ、えー、それ以上高度を上げることは危険です。想定された飛行能力を超えています』
「わかってる」
私の体は空の中を駆け上がる。
白い箒にまたがって、私は自由自在に空を飛び回ることができた。
それは私が魔法使いだからだ。
『えー、繰り返します。危険です。今すぐ高度を下げて、帰還してください、どうぞ』
「六葉」
『はい。えー、なんでしょう?』
「しばらく通信を切るから。あとのことはお願いね」
『えー、了解しました。グットラックです、さわら』
プツン、という音がする。
私は六葉との通信を切った。もう、私と大地の間に何のつながりも存在しない。
巨大な雲を突き破り、私は無限の広さを持つ雲海の上にでる。
『フフ、、』
誰かの笑い声が、耳に当てたヘッドフォンから聞こえた。
その声はノイズに混じって聞こえてきた。
とても小さく、とても聞き取りにくい声だったが、確かに今、誰かの笑った声が聞こえてきた。
『フフ、、ア、ハ、、ハハ、、』
雑音が酷くなる。
その声を聞いて私は思い出す。
空は楽園ではないということを。
ここは断じて聖域などではなく、ましてや、居場所のない子供が逃げ込むような世界でもない。
この場所は、戦場なのだ。
私の心に火が灯る。
回転運動をしながら、私の姿は雲の中に消えていく。
もっと上。
太陽の中。
そこには、空を飛ぶ二人の魔法使いと、透明な色に輝く奇妙な姿をした、とてつもなく巨大な生き物がいた。
大きな雲の中で私はさらに高度を上げる。
そして大きく右に反転して、雲の壁を突き破ると、私はそのまま、魔法使いたちに奇襲をかけた。