コツ、コツ、コツ、、、。
その音が聞こえてきた時、僕の全身に悪寒が走りました。
誰かが、こちらに歩いてきます。
やばいです、、。どこかに隠れないと、、。
僕はなるべく音をたてないように慎重にベンチから下りると、そのままベンチの下に隠れました。
コツ、コツ、コツ。
音は中庭の前で鳴り止みました。
ドキドキ、心臓の音がうるさいです。
、、、、、。
、、、、、。
、、、、、。
「そこにいるの?」
その声を聞いた時、一気に僕の心は緊張から解放されました。
僕はゆっくりとベンチの下から姿を現しました。
そこには一人の女の子が立っていました。
薄暗くて、顔はよく見えませんでしたが、先ほどの声でその女の子が花であことは、もちろん僕にはわかっていました。
「遅いですよ。失敗したんじゃないかって、心配してしまいました」
「ごめんなさい。ちょっとだけ、部屋を抜け出すのに手間取ってしまって」
「いや、、別に攻めている訳じゃないんですよ。ただ、心配だっただけです」
僕は花に近づきました。
そして驚きました。
花は僕を見つめて笑っていました。
あの無表情の花が笑顔だったのです。
僕と花は長い付き合いでしたけど、花が笑っているところを見るのは初めてでした。
「どうかしました?」
「え?、いや、別にどうもしません」
「そうですか。よくわかりませんが、とりあえず出発しましょう。私が遅れてしまった分を、今から取り返さないといけませんね」
「そうですね。急ぎましょう」
僕と花は手をつなぎました。
花の手は生きているとは思えないくらい冷えていました。
まるで冷蔵庫の中に住んでいる人みたいでした。
「僕たち、街までたどり着けますかね?」
「大丈夫です。ちゃんと二人で抜け出す方法を考えて、準備もしたじゃないですか」
「それは、そうなんですけど、、」
「なにか他に気になることでもあるんですか?」
花の声は弾んでいました。
そのせいで、僕はそれ以上、花に質問することがができなくなりました。
花の笑顔を守りたいって、僕はその時、そう考えていたからです。